ラウラの過去⑨ 逃亡先
まばゆい光が収まってくる。転送を何度やっても、この瞬間には慣れない。
ラウラはゆっくりと目を開ける。そこには、ラウラにとっては見慣れてる、私的な隠れ部屋の光景が広がっている。
ーーーそういえば、しばらく片付けをしておらず、かなり散らかっている。ヴァーレアもいる以上、片付けをした方がよいのか。
そんなどうでもいいことを考えていると、隣にいるヴァーレアが声をあげた。
「え、何ここ…。どこなの、ここは!?」
「静かにしてください」
戸惑う気持ちは分からなくもないが、まずは休ませることからだ。ラウラはヴァーレアを半ば無理矢理、部屋の中にあるベッドへと押しやった。
少し埃っぽいかもしれないが、贅沢は言ってられない。悪いが、我慢してもらうしかなかった。
「…ここは、国王達も知らない、私の隠れた研究室の一つです。元々は王宮が災害等で滅びた時などに備えた、研究データのバックアップ用に整備した場所だったんですが…」
ラウラは説明しながら、部屋の中にある端末に自身の魔力を流し込み、起動させる。型番としてはやや古めだが、まだ問題なく動くようだ。
だが、ここで研究に取り組むつもりはない。器具や装置が足らないというのも理由の一つだが、それが一番の理由ではない。
「とはいえ、特に捜査撹乱の加工はしていないので、国王達が本気で調べればここを見つけることはできるはずです。もって一ヶ月、といったところでしょうか」
「一ヶ月…?その間に、どうするんだい?」
「まずは、あなたの体力回復を優先します。さすがに数日では見つからないくらいの深い場所なので」
ラウラはデータのバックアップがあることを確認し、端末そのものを魔力で圧縮した後、袋の中へとしまい込んだ。
そして、部屋の中にある食糧庫を開ける。
そこにある食料は、新鮮味はなさそうだが、腐ってはいない。数日程度なら、籠城もできそうなくらいに備蓄があった。
ラウラはその中にある大きな袋を手に取り、その場で開ける。
中には、乾パンが袋に小分けされて入っている。その中の一つを取り出し、ヴァーレアへと投げ渡す。
「うぉ、ちょっ…」
「あなたの体力が戻り次第、ここを出ます。飲食に困らない程度の備蓄はありますが、贅沢は言えません」
ラウラはそう言うと、水の入ったボトルの蓋を開け、ゴクゴクと飲み始める。当然美味しくはないが、水分補給ができるだけありがたい。
ヴァーレアはその様子を呆然と見ている。その視線に気づいたラウラは、ボトルを口から離し、ヴァーレアの方に体を向けた。
「…なんですか?」
「いや…何で、ここまでするのかな、って…」
「どういうことです?」
質問の意図が分からない。
不思議に思いながら、ラウラはヴァーレアの言葉を促した。
「いや…だってキミは、ボクを召喚して抑えつけようとした連中の側だったんでしょ?なのに、その連中を裏切ってまで…」
「…私は元々、あの連中を信用していませんでした」
ラウラが何気なく発した言葉に、ヴァーレアは目を見開いていた。
そんなに、おかしなことだろうか。ラウラにとっては、何一つ嘘をついていないと言うのに。
「もちろん、私なりのロジックはありましたが…単純に、悪魔側の意志を無視してる前提に納得いかなかっただけです」
「ラウラ…」
「正義に燃えてるだとか、義憤にかられてだとか、そういったことではありませんからね」
そこだけは、念を押しておいた。
自分の行為が正義である、とは思っていない。むしろ自分の中にあるロジックで納得ができなかった、というだけの話だ。
それがヴァーレアからどう見えるかまでは分からないし、興味もなかった。
「…キミ、変わってるって言われない?」
「言われますけど。それが何か?」
「変わってるよ、ホントにね」
ヴァーレアは苦笑いしながら、乾パンをかじり始めるのだった。




