ラウラの過去⑧ 国王への忠告
今、何と言ったか。自分の聞き間違いでなければ、悪魔の退路は既に断たれている、と言ったか。
もしそれが本当ならばーーー国王もソロモニアも、あまりに悪魔を軽視し過ぎている。
ラウラはかつてないほどに冷たい視線を、国王に送る。だが、それに対して国王は嘲笑っていた。
「お前はもう魔界に帰ることはできん!最初から私に従うしか道は残っていないんだよ!!」
国王は臆病ではあるが、理性的な人物だと思っていた。だが、今やその評価は適切ではない。
ーーーいや、極限状態で本性が現れた、というべきなのだろうか。自分が政から距離を取り続けてたためか、その本性を把握できなかったことだけが、悔やまれる。
「さぁ、ラウラ…その悪魔を、こちらへ引き渡せ。今ならまだ、お前の命令違反にも目をつぶってやる」
国王は変わらぬ様子で、手をこちらに突き出す。
回復させたとは言え、悪魔の方もまだ本調子ではない。ラウラ自身が悪魔の捕縛に協力すれば、この件は丸く収まるであろう。
「貴様とで、我がドゥローラそのものを敵に回したくはなかろう。ましてや、大悪魔を奴隷として複数従えるソロモニアからの援助もある。貴様一人では、反逆しても勝ち目はないぞ」
ーーー随分と、めでたい頭だ。ラウラは呆れたようにため息をつく。
だが、その視線を国王から外すことなく、背後の悪魔へと語りかけた。
「…あなた、名前は?」
「え?」
「私はラウラといいます。あなたは?」
悪魔は変わらず戸惑っている。それも変な話ではない。
悪魔祓いでは、聖水などで悪魔を苦しめ、悪魔に無理やり名乗らせることで主導権を握り、悪魔を祓うことができる。それゆえ、悪魔が人間に名前を知られることの意味は、非常に重い。
だがそれは、逆方向からとて同じことだ。悪魔に自分の名前を知られれば、支配されるリスクが格段に上がる。
ーーー全て、承知の上だった。ラウラは悪魔からの返事を、静かに待った。
「…ボクは…ヴァーレア」
悪魔は小さく、しかしハッキリとした声で名乗った。小声だったため、国王には聞こえていない。
ラウラはその意味を、しっかりと受け止めた。そして詠唱を行い、二人の足元に使い捨ての転送陣を敷いた。
「ラウラ、貴様…ッ!!」
当然、国王もその動きには気付く。しかし、未だに腰が引けたままであり、ラウラのもとに即座に駆け寄ることができずにいる。
もっとも、仮に来れたとしても、徹底的に妨害していたところだが、手間が省けた。
「ドゥローラ国王陛下。これが私からの、研究者としての最後の忠告です。…力のある者を縛り付け、無理矢理従属させるような関係は、いずれ崩壊し、国の衰退へとつながります。しかもそれは、即座の破滅ではなく、何代もかけての、緩慢な破滅となるでしょう」
「き…貴様ぁっ!!」
ラウラの言葉を聞いて激昂したのか、国王が勢い良く走ってくる。
ーーーだが、もう遅い。転送陣が起動し、ラウラ達を赤い光で包み込む。
「私の研究室は、好きに処分してくれて構いません。おさらばです、国王陛下」
それだけ言うと、ラウラはヴァーレアと共に、転送陣を使用してその場から姿を消したのだった。




