ラウラの過去⑦ 反逆と回復
魔力が一気に霧散し、その場には土埃と魔力の残滓、そして倒れてる魔術師達と腰の抜けた国王だけが残っていた。
魔術師達は魔力切れで倒れただけのようであり、触診してみたところ、特に大きな怪我は見当たらない。少し手当てをすれば、問題なく動けるであろう。
「ら、ラウラ…今のうちに、その悪魔を私の方へと…」
国王は腰を抜かしながらもなお、悪魔の身柄を要求している。実に、情けない姿だ。
「…陛下。アナタにこの悪魔の身柄を渡したとして、どうするおつもりで?」
「決まっているだろう!我々の国の奴隷とする『契約』を結ばせるのだ!!」
「契約…」
人間と悪魔との間の契約。それは、通常の契約とは意味が違う。
悪魔にとっての契約という言葉は、その人間への隷属を意味する。契約内容によっては悪魔が主体で契約を結ぶこともあるが、ソロモニアや国王の態度からして、それは期待できない。
「…正気ですか…?何の罪も犯してない悪魔を奴隷とするなど…」
「それの何が問題なのだ!!奴隷としてあれほどの力を振るう悪魔を使えれば、私は、いや我が国は、最強の抑止力を持つこととなる!そうなれば、お前もますます研究に専念できるだろう!!」
ーーー無理だ。この国王は、すっかり汚染されている。
ラウラは回復用の魔力を、掌に込める。
それを見て、国王が歓喜の表情を見せた。
「おぉ…何だかんだ言いながら、助けてくれるのか…!その魔法を、早く…!!」
「…もう、ダメですね」
ラウラはそう言うと、未だに意識を取り戻していない悪魔の方へ、回復魔力を撃った。
あれほどの魔力を持つ悪魔だと、どの程度効くかは不透明だが、ないよりはマシであろう。
「な…っ…!?貴様、今何をしたか、その行為の意味が分かってるのか!!」
「…私が意味も分からずにやってると思いますか?国王陛下」
ラウラは国王の方へ振り向かず、悪魔の方へと歩み寄る。
国王の前で、国王が捕らえようとしてる者に手を貸す。これだけ見れば、完全に国王の命に反して国に損害を与える、言わば背任行為だ。
だが、もうそんなことはどうでもいい。正義感に燃えてるわけでもないが、こればかりは人間としても見過ごせない。
「う…うぅ…っ…」
すると、寝そべっていた悪魔が、ゆっくりと目を開く。倒れたまま周りを見て、ラウラの存在を認識した。
「…人間…ッ!!よくも、ボクを…!!」
悪魔は当然、ラウラを睨みつけてくる。それも当然だろう。いきなり召喚されたうえで拘束され、あんな攻撃をされていたのだから。
ラウラはあえて少し距離を取り、両手を上げるポーズを取った。
「…私は敵ではありません。アナタが魔界へ帰還することを止めません。体力がないなら、回復もさせます。魔界へ、お帰りください」
ラウラはそう言い切った。
国王が後ろで喚いているようだが、そんなものは聞こえない。
ラウラは両手を上げたまま、ただまっすぐに悪魔を見つめている。自分が嘘をついていない、それをアピールするために。
悪魔もラウラの反応を見て、少し戸惑っている。
「え…えっ?キミ、ボクを召喚した側なんじゃあ…」
「…謝罪がほしいなら、私がいくらでも謝ります。いきなりお呼びしてしまい、申し訳ありませんでした」
ラウラはそう言うと、地面が土まみれで汚れることも気にせず、土下座で頭を下げた。
その反応に、さすがの悪魔も面食らったようで、唖然としている。だが、そうでもしないと、ラウラの気は収まらなかった。
「…分かった。帰るよ」
悪魔は何とか、動かしにくそうに起き上がる。やはり、魔力の枯渇は、あの程度の回復魔力では賄いきれないのだろう。
だが、後ろで国王が大声で叫んだ。
「ムダだ!!お前の退路は、すでに断ってある!!」
その言葉で、ラウラの感情が、絶対零度にまで冷え込んだ。




