ラウラの過去⑥ 強大な悪魔との出会い
そこから数ヶ月の月日が流れた。
相変わらず魔導研究所の実験室に籠もって研究に取り組み、週に一回の退屈な定例会議には変わらず呼ばれる。
変わったことと言えば、あのソロモニアの男達が、普通に王宮へ出入りすることになったことくらいだろうか。ラウラはあまり興味がなかったが、定例会議の時に堂々と現れることもあったほどだ。
ーーー余程、国王や上層部から信頼されているのだろう。それそのものを、否定するつもりはなかった。
だがある日、いつものように実験を行っていたところ、王宮全体を揺るがす、とてつもない轟音が響き渡った。
「な、なんですか!?」
しかも、一瞬の出来事ではない。断続的に、激しい戦争でも起きたかのような爆破音が響き続けているのだ。
明らかに、ただ事ではない。ラウラは思わず、白衣を脱ぎ捨て、実験室の外へ出る。
それと同時に、爆発的な魔力が肌を撫でる。
ーーー悪魔の魔力だ。しかも、今まで人間界で召喚された悪魔とは、比にならないレベルの巨大な魔力。
そんな強大な悪魔を呼び出したとでも言うのか。
魔術師としても看過することはできない。魔力の発生源へ、慌てて向かう。
その間も、戦闘音が止むことはない。恐らく、強大な魔力を持つ悪魔を相手に、複数人で戦っているのだろう。だが、ここまで大規模に魔力を出力できる悪魔だとするなら、かなり絶望的な戦力差ではなかろうか。
派手な王宮の廊下にも、亀裂が入り、瓦礫が落ちてきている。このまま派手な戦いが続くと、下手をすると王宮そのものが破壊されてしまいかねない。
「…ここですか…」
第三鍛錬室。兵士の鍛錬に使われる訓練部屋だ。だが、今その扉の向こうからは、開けることさえ躊躇われる凶悪な魔力が漏れ出ている。
扉に手をかけたその瞬間も、戦闘音は止んでいない。一体、この扉の向こうには、何がいるのか。恐る恐る、扉を開いた。
まず見えたのは、青い空。だが、ここは屋内だ。戦闘で、天井が破壊された、というところなのだろう。
そして、その周りにいる複数人のソロモニアの魔術師と、完全に腰が引けてる国王の姿。
だが、何よりも目についたのは、以前ラウラも受けた拘束術式を受けてもなお、魔術師達との戦闘を続ける悪魔だろう。
薄い赤紫のロングヘアーを携え、牛のような角を生やした、レオタード姿の女悪魔。だが、その親しげのある見た目からは想像もつかないほど、その魔力は凶暴だった。
「…どういう、状況ですか…!?」
「お、おぉ!ラウラか!!」
あまりの状況に呆然としていると、国王が這いつくばりながらラウラに近付く。
その姿は、情けないという一言に尽きる。だが、こんな状況であれば無理もないであろう。
「どうせならと、連中の手垢のついておらん悪魔を召喚してもらったのだが、見ての通り手に負えぬ!!あの者を拘束して服従させようとしておるのだが…」
「…は?」
今、何と言った。
手垢のついてない悪魔を召喚した、と言った。
ーーーすなわちそれは、人間界で犯罪を犯した悪魔ではなく、何もしてない悪魔をいきなり魔界から呼び出した、ということか。
「お前も魔術師なら手伝えラウラ!!この悪魔を奴隷とし、我々がドゥローラを、いや、世界を支配するのだ!!」
ソロモニアの魔術師側も焦ってるようで本音が漏れている。国王には聞こえていない様子なのが、せめてもの救いだろうか。
ーーーなるほど。どうやらソロモニアの本音は、悪魔を服従させて奴隷とし、果てはこの世界をも支配すること、といったところか。
「くそっ…!!こっちの魔力も、もう限界だぞ…!!」
「拘束術式が、破壊されてしまう…!!」
ソロモニアの魔術師達が、必死に足掻いている。だが、その魔力残量も、もって残り数秒だろう。
だが、それはあの悪魔も同じようで、魔力の出力が明確に落ち始めている。この調子だと、お互い力を使い果たして相討ち、という結果になるであろう。
ラウラは動かずに待った。予想通り、ものの数秒で、ソロモニアの魔術師達が魔力を使い果たし、その場に倒れ込む。
そして、拘束術式の中で、悪魔も力を使い果たしたようで倒れ込んでしまった。




