ラウラの過去⑤ 信用の採決
それから一週間。
代わり映えのない日々を送るラウラは、また会議室にで座っていた。
週に一回行われる、ドゥローラの定例会議。
研究者に過ぎない自分は欠席でいいだろうとずっと言い続けているが、その要望が通ったことはない。
ただ退屈で、研究の時間を削られるだけの無駄な時間だと言うのに。ラウラはあくびをこらえながら、会議の開始を待っていた。
すると、会議室の扉が開く。そちらを見ると、国王が入ってきていた。ラウラは静かに会釈をする。
国王はそのまま、上座にある国王の定位置の席へと深く腰掛ける。
「さて、では定例会議を始める。今日の議題は、先週も予告した通り、ソロモニアという組織からの提案の是非を問うことから始める。皆の者、意見は固めてきたか?」
国王が皆を一瞥する。それに対し、皆は頷いていた。
ほとんど結果は見えてるような気もしなくはない。ラウラからしたら、ほとんど茶番にしか見えなかった。
「さて、それでは採決を取る。先週のソロモニアの提案を採用することに賛成の者は、挙手をせよ」
国王がそう言うと、周りの幹部達は皆挙手をした。どうやら、皆賛成らしい。
ーーーだが、ラウラは手を挙げなかった。
その様子を見た国王が、不思議そうにラウラを見る。一人だけ反対と言っている以上、確かに目立つだろう。
「…ラウラ。貴様は反対なのか」
「えぇ。あれを採用すべきではありません」
自分一人が反対意見を述べても、賛成多数で採用にはなってしまうであろう。だがそれでも、流されて自分の意見を曲げることはしたくなかった。
「賛成多数で可決にはなったが…一応、理由を聞いておこうか」
国王は皆の手を降ろさせながら、ラウラの方を見る。国王だけでなく、周りの幹部もこちらを見ている。中には、不服そうに睨みつけてくる者さえいる始末だ。
だが、そんなものを気にすることなく、ラウラは口を開いた。
「この国は、ドゥローラの国。政治の中枢に関わる者は、ドゥローラの民であるべきです。私は政治にさほど興味はありませんし、他種族が政治の中枢にいようと問題はないと思ってます。ただそれが、拘束されて無理やり服従させられた悪魔である必要は、どこにもないか、と」
「…何を言ってるんだ、お前は?」
持論を述べていたところで、幹部の一人が心底呆れたように声をかけてくる。
不思議に思いながら、そちらの方を見つめる。
「どういうことですか?」
「よそ者であることを認めないってことなのか?」
「…何か勘違いしてるようですね」
ラウラはそう言いながら、一息ついた。
「別に、移住してきた者でも問題はありません。隣国のエスカンから来た獣人が、ドゥローラのトップになる。これは、全然構いません。ただし、きちんとした手続きを踏み、ドゥローラの民として公的に認められてる、という前提であれば、です。召喚されて服従させられてる悪魔に、そういう市民権はないでしょう」
「…だから何だ?」
すると、幹部は再びため息をついた。
まだ納得がいかないのだろうか。
「だからも何も、今お話したことが全てですよ」
「それで絶大なメリットを持つ技術を使わねぇ理由には、ならねぇだろうよ」
「メリット?」
悪魔を召喚し、服従させることのメリット。
確かに、人知を超えた力が得られたり、知能が得られたりする。しかし、悪魔はよほど弱小なものでもない限り、基本は人間を蝕む存在。そんなものを召喚するメリットなど、ラウラには思いつかない。
だが、相手はお構いなしに続けようとした。
「それはな」
「待て。そこまでにしろ。本筋から外れる議論をするな。どのみち、採用は確定だ」
しかし、幹部の発言は国王により遮られる。
やはり、自分一人が反対意見を表明しても、覆すことはできなかった。
「賛成多数なので、ソロモニアがもたらした技術を用いて、どう運用していくか。それに関する会議も行う」
「…国王様、私は退席しても?そもそも採用に反対ですし、そんな私がいたところで無意味に等しいでしょう」
「しかし…」
「先ほど申し上げた通り、私は政治に興味がありません。悪魔を使役する際に、私は一切関わりませんので」
それだけ言うと、国王は黙り込んでしまった。それをいいことに、ラウラは立ち上がり、そのまま会議室を出た。
国王の反応からすると、反対意見が出ることそのものを想定していなかったようだ。だとするなら、この国の国王も、ずいぶんと視野が狭い。
「…やれやれ」
ラウラは一抹の不安を抱えながら、実験室へと戻っていった。




