ラウラの過去① 会議資料にある不穏な名前
それは、およそ数百年前のこと。
まだ、人間界で悪魔との契約が行われており、悪魔信仰も盛んだった、ドゥローラという国の中ーーー。
その国内の国家魔導研究所の実験室で、特徴的な銀髪を携え、眠そうな瞳で実験装置を操作し、小規模な魔力衝突試験を行う白衣姿の女性がいた。
「…ふむ…この条件ですと、データはこのように…。これだけのデータがあれば、サンプル数としては十分でしょうか」
国家魔導研究所所属最高峰の宮廷魔術師として、ドクロや紫色の禍々しい液体、怪しげな水晶などが点在する研究室の中で、今と変わらぬ姿を持つラウラが実験を行っていた。
データの記録を取り、装置からサンプルを取り出して片付ける。今日の実験は、これで終わりだ。
味気のない、大した刺激のない日々。人間の魔力運用に関わる研究を行うため、研究のモチベーションこそ腐ってはいなかったが、その他のことへの退屈さは抜けなかった。
「ラウラ先生!会議のお時間です!第四会議室までお越しを!」
「…把握しています。いちいち伝令に来なくてもよいと伝えたはずですが」
ラウラはため息をつくと、着ていた白衣を丸めて放り投げる。白衣は近場にあった椅子の背もたれに引っかかったようだが、特に気にする要素はない。
ラウラは伝令に来た召使いを完全に無視し、迷いなく王宮へと向かう。
実験室から王宮へ向かうに連れ、段々廊下の装飾が派手になっていく。代々王宮を派手にするのが、ドゥローラ国王の慣習らしい。
ーーーバカバカしい。見る度に、ため息をついてしまう。
何とかラウラの希望を押し通し、実験室近辺だけは装飾ナシにしてもらってはいたが、本当にそれで良かったと心底思っている。
王宮にある、第四会議室。主に外部からの来賓も交えて運営会議を行う際に使われる会議室。ラウラはその扉を、特にノックすることなく開いた。
定刻まで十五分以上あるにも関わらず、すでに国王を含めた、国側の運営幹部は勢ぞろいしている。相変わらず、時間には無駄に厳しいようだ。
「何だ、ラウラか…。まぁいい、座れ」
「まだお客が来ていないようですが」
この会議室を使う、ということは、外から誰かしら専門家を交えての会議をするはずだ。だが、会議室を見ても、見慣れた国王や参謀達しかいない。
とはいえ、まだ時間にはなっていないので、相手を責めるつもりはない。
暇なので、手元にある資料を見る。
今回は会議資料が非常に薄く、会議のタイムテーブルしか書かれていない。
だが、ある一点にだけ、目をひかれた。
ーーーソロモニア。
これが、今回会議に参加する、外部組織なのだろうか。そうなると、今回の会議は、外部組織による国政へのプレゼンテーションを兼ねているのだろう。
刺激の無い退屈な会議で、数少ない刺激になり得る内容が来るかもしれない。過剰な期待をすることなく、ラウラはその資料を理由もなく眺め続けていた。




