襲撃と再来
ーーー騒音。
柵の方から、何かが壊れるような、大きな音が聞こえてきた。
「え…?」
視線を向けると、柵は破壊されて、元の形から歪んでいる。そして、その向こう側には、一人の男が立っていた。
男は明らかに、怒っている。その怒りは、自分たちの方に向いてると、直感的に分かった。だが、男には見覚えがない。
一体、自分達が何をしたというのか。
それを考えてる間に、男はどんどんこちらに近付いてくる。
混乱と恐怖で動けずにいるペルセより先に、マールが動いた。
「ちょっと〜、いきなり何〜?ここ、人んちだよ〜」
さすがのマールも、呑気にはしていられないのだろう。男の前に躍り出て、注意をしようとした。
ーーーその瞬間、マールが消えた。
何が起きたか、全く分からない。マールは、どこへ行ってしまったのか。
マールがどこにいるのかーーーそれは、すぐに思い知らされた。
「がふっ…!!?」
自分の前にいたはずのマールの声が、後ろから聞こえる。声のする方を見ると、先程まで座っていた机や椅子をなぎ倒し、マールが地面に叩き付けられている。
ーーーその腹部には、明らかに異常な、殴られた跡があった。
「え…?」
一体、何がーーー。それを理解しようとしても、ペルセの思考が追いつかない。
マールは気絶こそしていない。しかし、時折口から血を吐いている。
「マール…さん…!?」
「神聖なアスティアノを穢すゴミを庇うか…所詮は欲を貪る低能なサキュバスだな…」
駆け寄ろうとしたペルセの動きを、男の声が止めた。
ーーーこの声ーーー聞いたことがある。
忘れるはずもない、二度と聞きたくなかった声。
『ゴミ山のガキ。せめてもの優しさだ。親父と一緒に、葬ってやる』
そう言って、オーレンを、自分を、ダスノムという世界ごと、消そうとしてきた、あの悪魔の声ーーー。
「…………ッ!!」
嫌でも思い出してしまった。
震えが止まらない。その場から、動くこともできない。
怖い。
怖い。
…こわい…。
「神聖なアスティアノに、ゴミが紛れてんじゃねぇ!!」
次の瞬間ーーー。
ペルセの腹部に恐ろしいほどの衝撃を感じた。
今まで、聞いたことのない、中で何かが折れるような音が聞こえる。同時に、胃から、喉から、何か生暖かい液体があがってくる。
「がはっ…!?」
気づいた時には、ペルセは柱に寄りかかっていた。
腹に激痛が走る。遅れて背中にも痛みを感じた。どうやら、柱に叩き付けられたらしい。
口からは血が溢れ出てきていた。
「ダスノムのガキが、こんなとこにいやがったとはなぁ…!!テメェは、生きてるだけでアスティアノを…いや、魔界を汚しちまう…!!」
相手の男が、なにか言っている。しかし、痛みで意識が朦朧としていて、聞き取れない。
口から何かが吐き出される。その感覚で、辛うじて意識をギリギリ保ち続けていた。
「ダスノムってのはな!!『存在』が罪なんだよ!!」
もはや、相手の声も、ほとんど聞こえない。
聞こえてくるのは、自分の内側の声だけだった。
怖い。
怖い。
何で。
どうして。
私が。
オーレンさんが。
マールさんが。
どうして、こんな。
ただ、生きていただけなのに。
ーーーどうして。
そうしている間も、体は、動かない。
感じるのは、強い痛みだけだった。
自分の声だけが、やたらと頭に響く。
ーーー私は、いけない子?
ここにいるだけで、怒られる子?
ーーー違う。
マールさんや、ハイーラさんは、受け入れてくれた。
特に、マールさんは。
自分の生まれを知っても、なお受け入れた。
ーーー生まれなんて、関係ないーーー。
こんなのでやられるのは、納得がいかない…!!
「欠片も残さず消してやる。ダスノムのゴミが…!!」
その声が、頭の奥に響く。
オーレンさんも、マールさんも。
私のことを、何も言わずに受け入れてくれた。
そんな二人を。
ただ、ダスノムに関わっただけで。
あんな目に。
ーーー許せない。
許せない。
…………許せない!!!!
ーーーその感情と同時に、自分の内側から、何か湧き出てきた。




