一時の平穏と…
ーーー色々な体験をした。
その全てが、初めてのことだった。
ダスノムでは見たことのない道具。
味わったことのない、美味しい食事。
理解しきれなかったけれど、楽しかった遊び。
その日も、次の日も、色々な体験をした。
ハイーラ達に、町の色々なところへ連れて行かれた。
全てが、楽しかった。新鮮だった。
ダスノムの外には、こんな世界が、あったのか。
時には、食いつき過ぎてハイーラに止められることもあったが、それもいい思い出になった。
「いや〜…色々見て回れたよね〜」
「もう…よくわかんないけど、とにかくスゴかった…」
そんな日々を過ごして、現在ペルセは、マールと共に、ハイーラの家でのんびりとしていた。
家と言っても、部屋の中ではなく、屋根や柵こそあるが、外からも見えるような場所だ。そこに小さくてきれいな机と、椅子が置いてある。
その机の上には、二人の分の小さいカップが置いてあった。中には緑色の液体が入っており、湯気がたちのぼっている。カップの中からは、不思議と落ち着く香りもする。
「…すごい世界があるんだね…」
「私もここに来るのは久しぶりだからね〜」
お互い、完全に椅子の背もたれに寄りかかっている。ハイーラがいたら怒られそうな座り方だが、今はハイーラが仕事に行っており、家にいないので遠慮なくくつろげる。
ふと、外側に目を向ける。
柵越しでも、町が賑わっているのが見える。店の中に出入りする悪魔達、宙にぶら下がる橙色の灯。
そして何より、この空気の心地良さ。
「…皆、こんな生活をしてるの…?」
思わず、そんな言葉が口をついて出てきた。
ここ数日、この町を色々見て回ったがーーーあまりに違いすぎる。同じ悪魔なのに、ここまで差があるものなのか。
「まぁ〜…この町に住んでる悪魔は、大体そうだね〜。ここ、一応上位の町だし〜」
「じょうい…?」
また聞き慣れない言葉が聞こえてきた。その言葉に、少し引っかかり、マールの方を見る。
マールは呑気に、カップの中の液体をゆっくりと飲んでいた。
「じょういって、何?」
「まぁ〜…上の方、ってとこだよ〜。少なくとも、私の住んでる町よりは、ね〜」
ーーーこの魔界に、そんな上下関係があるのか。ペルセにはよく分からないが、今いる場所が比較的上の方であることは分かった。
ペルセは話を聞きながら、カップの中に入ってる液体を飲み干した。…暖かく、どこか落ち着く味だった。
「…さて〜…じゃあ、そろそろ、片付けるよ〜。ハイーラも、そろそろ帰ってくるし〜」
少しして、マールはゆっくりと立ち上がった。ペルセもそれに釣られるように、のんびりと動き出した。
ーーーしかし、二人は気付かない。
柵の外側で、二人を遠くから見つめる、一人の男に。
男は、ペルセに対して、明らかに普通ではない、歪んだ視線を送る。
ーーーそして、何の躊躇いもなく、歩きだす。




