拭えぬ違和感
ペルセを寝かせたハイーラがリビングに戻ると、背もたれによりかかり、今にも寝そうな状態のマールが目に入った。
「あ〜、お帰り〜。終わらせたよ〜」
「そ。あんがと」
ハイーラの姿に気付き、雑に手を振ってくるマールに、ハイーラは雑な返事しか返さなかった。
食器洗いの出来は、確認するまでもない。
マールは、面倒くさがりなだけで、別段家事能力が低いわけではない。それは、よく分かっている。
ハイーラはそのまま、マールの真正面にある椅子に腰掛けた。
「さて…マール」
「ん〜?」
ハイーラは一息つき、マールの顔を正面から見つめる。対するマールは、変わらぬ姿勢ではあったが、顔だけハイーラの方に向けてきた。
ーーーこの様子では、あまり長くはかけてられない。
「…いくつかあの子について聞かせてもらうわよ」
「え〜…」
マールの目をしっかり見据えた。一方のマールは、やはり面倒そうな態度だ。だが、このまま自分が何も知らぬままでペルセを世話するのは、道理に合わない。
「…アンタ、あの子をどこで拾ったのよ?」
「普通に、ベリアスにある私の家の近くにいたんだよ〜」
…これは想定内の答えだ。
無類の出不精でもあるマールが、自ら町に繰り出して保護した、というのは考えにくい。そこは予想通りだ。
「…質問を変えるわね。あの子、どこの子なの?」
「それ、生まれを聞いてる〜?」
「質問に質問で返さないの。…で?どうなの?」
「本人はダスノムの生まれだって言ってた〜」
「…え?」
ダスノム。この魔界のゴミ処理場の名前だ。あんなところで、悪魔が暮らせるのか。
何なら、その名前を、このアスティアノで口に出すことすら憚られる。
…だが、ペルセがまともに暮らせてなかったと考えるなら、あの異常な食欲とマナーの無さも、納得はできる。
「あんた、それを分かっててここに連れてきたの…!?」
「言わなきゃバレないでしょ〜」
「そういうことじゃ…!!」
能天気なマールの態度を見てると、本気で焦ってる自分がバカみたいだ。
アスティアノでは、存在すらも否定されるダスノム。そんなところから来た悪魔がいると知って、良い顔をする者は、いない。
酷い場合だとーーー
「ん〜…他にないなら、私寝るね〜」
「…ちょっと待ちなさい!まだ終わってないわよ!」
早々に抜けようとするマールを、慌てて止めた。油断すると、こういう場からすぐに逃げようとする。それがマールだ。
「…マール、あんたも気づいてるでしょ?」
「何に〜?」
「とぼけないで。…あの異常さに、アンタが気づかないわけ無いでしょ」
マールはすっとぼけようとしたようだが、そんな物を通すわけがない。軽く触れただけの自分でも気付いたのだ。
アスティアノでも全く見たことがない、あの異常な魔力に。
「…やっぱり、ハイーラも気付いた〜?」
「えぇ。ただ、完全には出てない。なんというか…蓋が外れかかってる感じね」
「ベリアスでも、大きな魔力乱れを起こしたっぽいんだよね〜」
「…ベリアスだと、アンタがいる時点で乱れっぱなしじゃないの?」
マールの魔力もベリアスの中では質が違うタイプだ。だから、ベリアスの町は、マールの魔力で乱されっぱなしだ。
しかし、ペルセの魔力には、それとも違った何かを感じた。自分には扱いきれない。そんな気がしてならなかった。
「…とにかく、注意しなきゃいけないね。何かの切っ掛けであの子の魔力が暴走でもしたら…」
「多分、相当大変なことになるね〜」
ーーーそれだけは分かった。
何らかの切っ掛けで暴走させてしまえば、下手をすると家も無事では済まない。
「つか、なんつーもん拾ってきてんのよアンタは…」
「面白そうでしょ〜」
「…はぁ…」
マールは本当にこの危険性を分かっているのか。相変わらずの呑気さに、頭が痛くなる。
この心配が、杞憂で済めばよいのだがーーー。




