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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第二部 第七章 迫りくるラウラの過去

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苛立ちと撤退

 突っぱねられた男の感情に、若干の波が立った。


 なぜ、振り向きもしない。まるでそう言ってるかのような苛立ちが、顔を見ずとも聞こえてしまう。


「君、噂の留学生だろう?遅刻なんてしたらまずいんじゃないのかい?」

「…人を待ってるんです」


 遅刻したらまずい。それ自体は否定しない。こればかりは、大人しく怒られるしかない。そこは、言い訳のしようがない。


 だが、ペルセが変わらず動こうとしないことに対する苛立ちは、確実に強くなっている。だが、男はそれを表に出さず、さらに言葉を重ねてきた。


「もしかして、クラスに馴染めてないのかな?相談ならおじさんがのってあげよう」

「いりません。相談があったら、今待ってる人にするので」


 その言葉を返した瞬間、最高潮に達していた苛立ちのせいで、何かが切れたような音が聞こえる。


 ーーー堪忍袋の緒でも切れたのか。


 そんなことを考えていると、後ろにいた男の感情に、大きな変化があった。


 悪意が、敵意に近いものに変わっている。さすがに、これはまずい。


 ペルセは慌てて振り返る。だが、そこにいる男の表情は、穏やかなものだった。だが、その目は明らかに笑っていない。


「…おや?どうしたんだい?」


 だが、言葉は変わらず冷静だった。表情も変わらず、同じくらいの穏やかさだ。


 ーーー目的が分からない。それほどの敵意を見せているのに、何のつもりで接触してきたのか。ペルセは何も言わず、相手の男を見つめていた。


「ペルセさん!!」


 膠着状態を破ったのは、ラウラの大声だった。それと同時に、魔力通話が途切れた。

 中庭の入り口の方に、肩で息をしているラウラの姿があった。時計を見ると、通話を始めてから十分と経っていない。


 職員室からこの中庭までは、なかなかな距離があったはず。ずっと走り続けていたのか。


「…おや、あなたは…確か、ラウラ先生、でしたかな?」


 ラウラを見た瞬間、男の中での憎悪が膨れ上がる。この男、ラウラと知り合いなのだろうか。


 不思議に思いながら見ていると、男は不満そうにしながらもその場で立ち上がった。


「待ち人というのはこの方ですか。では、おじさんは大人しく退散するとしましょう」


 男はそう言いながら、その場を離れる方向へと動いた。


 その去り際、ラウラの耳元で何かを囁いたように見える。だが、その内容は遠すぎるがゆえに、ペルセが聞き取ることはできなかった。

 しかし、その囁きを受けて、ラウラはその顔を一気にしかめる。余程、不愉快なことでも言われたのだろうか。


 男はそんなラウラの様子を気にすることもなく、そのまま立ち去る。


「ラウラ先生?」


 男を見送るラウラに、ペルセは静かに声をかける。ラウラはしかめた顔のままで男の背を見つめていたが、ペルセの言葉でハッとさせられたようだ。


「…無事で、よかったです」

「え?あの…」


 事情を聴かれるかと思って身構えていたのに、思い切り抱きしめられる。


 それと同時に、ラウラの安堵の感情も聞こえてくる。実の両親ほどの、力強くて、こちらが少し苦しくなるほどの抱擁ではない。だが、心配されていたことは伝わってくる。


「…とりあえず、今日は早退しましょう」

「えっ?で、でも…」

「私も一緒に帰りますので、事情は帰ってから説明します」


 授業に出れないどころか、学校から帰される。それ自体に少し不満ではあったが、ラウラの様子は鬼気迫るものだった。


 ペルセは、大人しく従うしかなかった。

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