鍛錬の中身
「ヴァーレア…!あなたという方は…」
「いやいやいやいや!?だって、割とマジで気になるじゃん!!」
「それはまぁ、否定しませんけど…!」
実際、ヴァーレアの興味ももっともな部分だ。
実習で見せたあの精密な制御。あれだけを切り取っても、エストラで一貫した教育を受け続けてる、高等部の生徒にも全く劣っていない。
だが、そこに加えて、トロールを一撃で無力化したという出力。悪魔であることを加味しても、ヴァーレアの反応から鑑みて、子供としてはケタ外れのものであろう。
だが、当のペルセは不思議そうに首を傾げるだけであった。
「どうやってと言われても…私は、魔界で鍛錬してただけですよ…?」
「いやそりゃそうでしょうけど!?」
問われてることが抽象的すぎたようで、ペルセの表情は、本気の困惑が浮かんでいた。
とはいえ、本人からしたらその程度の感覚なのかもしれない。ラウラは質問を切り上げさせようと、ヴァーレアの方を見た。
だが、ヴァーレアに止まる様子はない。むしろ、勢いそのままに言葉を紡いだ。
「じゃ、じゃあ質問を変えます!どなたと鍛錬されてましたか!?」
ーーーなるほど、誰に師事していたかに質問を切り替えている。質問の範囲を狭めており、問い方としては悪くない。
だが、仮にペルセが答えられたとして、ラウラにその人物が分かるとは思えない。それだけが、少し癪であった。
ペルセは特に考える間もなく、即座に答えた。
「えーっと…最初はアモディエナさんとやってたんですけど、途中からお母さんと時々お父さん、場合によってはイアノお姉ちゃん…でしょうか」
「うえぇ!?」
出てきた名前に、ヴァーレアも驚いていたが、ラウラも驚いた。アモディエナに関しては初日にペルセの付き添いで来ていて顔は知っていたし、イアノについても妹であるヴァーレアを通じてよく知っていた。
だが、ヴァーレアが食い付いたのは全く別のところだった。
「アモディエナ様と、デメナ様に…クロニオス様まで…?姉様までなんて…」
ヴァーレアは今にも倒れそうな呼吸をしている。ラウラの精神世界にいる悪魔なので、実際にくたばりはしないだろうが。
ペルセの父親についての話は聞いている。だが、アモディエナや母親についての話は、あまり聞けていなかったように思う。
「…ちなみに、どういう鍛錬をされたのですか?」
質問するどころではなくなったヴァーレアを放置し、ラウラは次の質問を投げてみた。その質問に対しても、ペルセは特に躊躇なく答えてくれた。
「えっと…アモディエナさんとは基礎訓練してました。どうやったら上手く使えるかとか、出力を調節できるかとか…」
なるほど。確かに、初日に出会ったアモディエナは、エストラの講師にいても全く違和感のないほどに仕事のできそうな男、という印象であった。彼のような男が基礎教育をした、というのは納得感があった。
「お母さんとイアノお姉ちゃんは、アモディエナさんと大体同じだったんですけど、お母さん達の方がもっと細かったというか…」
ヴァーレアから聞いてる限りだと、イアノは相当繊細な技巧を有しているらしく、デメナはそんなイアノの師匠だという話だ。そんな二人から教育を受けたとなると、確かに技巧が高いことも頷ける。
「お父さんは仕事が特に忙しいらしくて、たまにしか来れなかったんですけど、私には特殊な魔力があるとか言って、それの制御を…」
ペルセの魔力は、父親由来だとヴァーレアからも聞いた。しかも特有の『魔王の資質』をあの精度で制御下に置けているのは、完全に父親との鍛錬の成果だろう。
「…こんな感じのことを10年くらいやってたんですけど…答えになってますかね?」
ペルセは若干不安そうに、首を傾げてラウラを見つめる。相槌しか入れてこなかったラウラは、穏やかに微笑んだ。
「十分ですよ。よく分かりました」
そう言いながら、ラウラは立ち上がった。
聞きたいことは聞けた。もう、話は終わりだ。
どれほど強大な魔力であっても、制御が完全にできれば、出力の調節も容易になる。ただ、それだけのことであった。
「さて、じゃあご飯にしましょうか」
とりあえず、食事を作るとしよう。そう決意し、未だフリーズしてるヴァーレアに構うことなくラウラは台所へと戻った。




