保護者としてのひと言
ペルセの声を聞いて、ラウラは勢いよくそちらを向いた。
ペルセは体から湯気を昇らせながら、不思議そうな様子でラウラを見ているだけだった。
言わなければならないことが、山のようにある。研究者として聞きたいことも、エストラの一講師としても。
だが何よりも、留学生の保護者として言わなければならない。ラウラはペルセの方にゆっくり近付き、膝をついてペルセに視線を合わせた。
「ペルセさん」
「はい?」
ラウラは努めて優しい表情をするようにした。
実際、ペルセの行動は危険極まりないものだ。本人に実力があったから事なきを得たものの、普通なら怪我、最悪死んでいたとしてもおかしくないほどのことなのだ。本来なら、説教だろう。
だが、ペルセの勇気ある行動が、結果としてミノトとダリス、ひいては街への損害を抑えることに繋がったことも事実だ。それを責めることはできない。
ラウラは言いにくそうにしつつ、ゆっくりと口を開いた。
「…今日の一件について、トロールに一人で立ち向かったと聞いたときは、心臓が止まるかと思いました」
正直なところ、これは嘘偽りない本音だ。職員室で連絡を受けた時は、思わず呼吸を忘れるほどに驚いたのだ。あまりに固まっていたものだから、隣に座っていたエルフィーから思い切り背中を引っ叩かれるほどに。
「…ごめんなさい」
「謝る必要はありませんよ。最初から怒っていませんから」
ペルセは肩を落として、シュンとしている。
ラウラはそんなペルセの頭にそっと手を乗せた。風呂上がりだからか、まだ髪がほんのり湿っている。
ラウラは頭をポンポンと優しく撫でながら、言葉を紡いだ。
「ミノトさんやダリスさんを守るためにやってくれたことは分かっています」
「…うん。あそこで私が動かなかったら、ミノトとダリスが、トロールに潰されちゃうって、思って。だから私が相手しないと、って思ったんです。魔界でもトロールはいたし、相手したこともあったから…」
ペルセの声色は切実だった。
トロールが人間を腕力で潰す事例は、昨今ではかなり減ったが、未だにゼロにはなっていない。
友達を守る、という心意気は立派だ。だが、ペルセはまだ子供だ。本来、矢面に立って危険物と対峙する側ではない。
「次、同じ事があったら、大人を頼ってください。私でも、警備隊でも。あなたに何かあったら、私はあなたのご両親にも、アモディエナさんにも合わせる顔がありません」
だから、これだけは大人として言っておかなければならなかった。
自分は、あくまでもペルセを預かってる立場の人間だ。しかも、ペルセは魔界の最高幹部の娘であり、さらに実の両親と長年離れ離れだった、ということもヴァーレアから聞かされていた。
そんな愛娘を傷付けたと知られれば、愛情深い両親は怒り狂うか、深く悲しむであろう。娘を失った時のトラウマを掘り返すような真似は、したくなかった。
「ラウラ先生…」
「でも、ミノトさんとダリスさんは、間違いなくあなたが助けたんです。そこは、誇っていいところですよ」
「…はい!」
ラウラが優しく褒めると、ペルセは顔を上げ、笑顔で頷いた。
ーーーやはり、その笑顔は、子供特有の無邪気なものだ。ラウラは、内心ほっこりしていた。
すると、部屋にある窓に、ヴァーレアが姿を現した。その顔は、未知の事象を観測したときのように、ワクワクしているものだった。
嫌な予感しかしない。そんなことを思っていると、ヴァーレアは明るいトーンで口を開いた。
「ペルセ様、どうやってあんな制御と出力を身に着けたのですか?」
案の定、しんみりした空気はぶち壊されてしまった。




