ペルセの分析
家に着くと、とりあえずペルセを浴室へと半ば無理矢理押し込んだ。ペルセ本人は大丈夫だと言っていたが、土ぼこりが体のあちこちについていた。
制服については、自動洗浄魔術を施してあるので、あの程度の汚れなら問題にはならない。だが、ペルセの体についたものは、さすがに風呂場で落としてもらわないといけない。
そんなことを考えながら、ラウラは冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し、缶のプルタブを外した。
景気のよい音が、台所の中に響く。だが、その音とは対照的に、ラウラの表情は険しかった。
「…王の資質をあれほど制御する技巧を持ちながら、その出力はトロールを一撃で…。そんなことが、両立するとでも…」
昼休みにヴァーレアから聞いた話と、職員室で警備隊から聞かされた話が、頭の中でイヤでも交錯する。
実習のときに見せた、魔力での精密射撃。あれを行うには、かなりの魔力練度が必要だ。それを、ペルセは高精度でやってみせた。その事実だけでも、ペルセが魔界でかなりの鍛錬を積んでいることが分かった。
だが、警備隊からの話で、その出力までおかしいことが分かった。トロールを一撃で制圧できるほどの魔力など、人間業ではない。
…いや、ペルセは人間ではないのだから、人間基準で比較するのもおかしな話なのだろうか。
「…ランちゃん」
すると、窓の方から声がする。ラウラがそちらを向くと、窓にはヴァーレアが写っている。困ったように眉を少し下げ、心配しているような様子だ。
「何ですか」
「根を詰めすぎだよ。昼休みだけでもかなりオーバーヒートしかけてたでしょ」
それほどまでに、顔に出てしまっていたか。だが、今回の一件を受けては、そうなってしまうのも無理はないと思ってしまう。
何より、今回の一件に対し、ヴァーレアはどう思っているのか。それを、直接本人から聞きたくなった。
「…そうは言いますが…あなたは驚かなかったんですか?」
「何に?」
「ペルセさんが、トロールを一撃で沈めた、という話に…」
「…あー」
ラウラの問いに、ヴァーレアは少し気まずそうな様子で頬をかいていた。やはり、思うところがないわけでもないようだ。
人間界の常識だと、トロールはとても子供が一人で圧倒できる相手ではない。だが、魔界にもトロールがいる、という話は聞いたことがある。
ヴァーレアは少し躊躇いがちに口を開いた。
「そりゃまぁ…驚きはしたよ?でも多分、ランちゃんとは違う方向だと思う」
「と、言いますと?」
「一人で倒したことには驚いてないんだ」
そのひと言に、ラウラは目を見開いた。
一人で倒したことには驚いてないのか。人間界では、数人がかりでやっとこさ鎮圧しなければいけない相手だというのに。
「…トロールが魔界にもいる魔獣なのは知ってるよね?」
「えぇ…それは、以前聞いたことがあります」
「魔界では、無害ではないけど、トロールが出たくらいだと人間界ほどの大騒ぎにならないんだ。トロールを単騎で倒すことそのものは、アスティアノの中でも中くらいの実力を保持してればできるんだよね」
その情報は初耳だった。
怪力と巨体と、それに相応しいそのタフネスで、人間界ではかなりの脅威として扱われるトロールも、悪魔達のいる魔界ではそうでもないのか。
少なくとも、トロールを倒すのに、魔界の中でも極端な外れ値の実力は必要ないらしい。
「…けどね、子供が一撃で倒せる出力を出した、ってなると、話が全く別だよ…!!」
ヴァーレアはその一言に、かなりの感情を込めている。どうやら、幼子がやったことの方に驚きを感じていたようだ。
「ふ〜…さっぱりした〜…」
そうしていると、浴室からパジャマ姿のペルセが戻ってきた。




