現場からの帰還
「ラ、ラウラ先生…!!」
声のする方を見ると、そこにはラウラが立っていた。ミノトの担任であるラウラを見て、ミノトの母親は慌てて頭を下げた。
ラウラはそれを特に気にする様子もなく、現場を観察する。
「エストラの先生ですか?状況はお伝えした通りです。我々としても、信じがたいのですが…」
「…そのようですね」
警備隊から声をかけられたラウラは、倒れているトロールを見ている。表情があまり表に出てこないラウラが、難しい表情になっている。
ーーーこれは、夢ではない。現実なのだ。改めて、そう突きつけられてる気がした。
すると、ラウラはダリスの方へと顔を向けてきた。
「…事情は警備隊の方から粗方聞いています。大変でしたね、ダリスさん」
「そんな…俺は…」
ラウラの声に、ダリスを責める感情は全く入っていない。それどころか、むしろ労ってすらいるような声色だ。
慰められても、自分ができたのは泣いてるミノトを支えることだけだった。トロールを黙らせたのは、ペルセだ。信じがたいことに。
「ダリス君、あなたがいなかったら娘がどうなってたか分からなかったわ。だから、ありがとうね」
「おばさん…」
ミノトの母親は、ダリスの肩を優しく叩く。何だか、照れ臭くなり、思わず視線を逸らした。
ラウラはミノトの母親へ、ゆっくりと体を向けた。
「ミノトさんとダリス君を、ご自宅まで送り届けていただけますか?私はこの子を、ペルセさんを送迎しますので」
「えぇ。元々、ミノトとダリスを迎えに来たつもりでしたから、そうさせていただきます。お気遣いありがとうございます、ラウラ先生」
そう言いながら、二人は互いに頭を下げた。
何だか、居た堪れない。こんな場面に遭遇すると、子供としてはどうすればよいのか分からなくなる。ダリスはそのやり取りを見守ることしかできなかった。
「ペルセさん、帰りましょうか」
「はーい」
ラウラは優しくペルセに声をかける。それに対し、ペルセは無邪気な笑顔で応えていた。
先程まで、冷徹にトロールと対峙していた者と同一人物だとは、どうしても思えない。
ペルセはそのままラウラに連れられて、二人でその場を離れていく。
ダリスは二人の背中を、しばらく眺めていた。
「ダリス君」
ボーッとしていると、ミノトの母親から声をかけられた。見てみると、ミノトの母親は落ち着いたのか、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
「はい」
「帰りましょうか。君も送るわよ」
「ありがとうございます」
ミノトの母親はそのまま、ダリスの前を歩き出した。ダリスも現場を警備隊の者達に任せることにし、その場を後にするのであった。




