異常事態の伝達
ダリスは自分が見たままの光景を、警備隊の者達に話した。だが、話を聞くにつれて、警備隊は唖然とした表情へと変わっていった。
だが、それはダリスも同じだ。そんな光景を目の前で見たにも関わらず、信じることができていないのだから。
「…本当に、君が…?」
警備隊の顔が、一斉にダリスの隣にいるペルセへと向く。だが、当のペルセは、相変わらず不思議そうに首を傾げている。
「はい。私がやりました」
警備隊に聞かれたペルセは、特に否定することなく普通に答えた。
ダリスはふと、倒れているトロールへ視線を向ける。ペルセが一撃で気絶させたトロールは、未だに全く動いていない。
ペルセがあれほど完膚なきまでに圧倒してしまえたという事実が、未だに信じられなかった。
「隊長。トロールの状態が確認できました」
「どうだった?」
すると、トロールの近くで魔術師がやり取りをしている声が聞こえた。ダリスの耳も、自然とそちらへと向く。
「外傷はあります。ですが、それは暴れてる間についたものと推測。決定打になったのは、魔力による顔への一撃のみのようです」
その一言が、その場を再び凍らせた。
本当に、ペルセのあの一撃で、トロールほどの魔獣を倒せたというのか。しかも、ほとんどフルパワーだったトロールを相手に。
その場にいる者達の視線が、一斉にペルセへと向く。だが、当のペルセは相変わらず不思議そうにしているだけだった。
「本来なら話を聞くところだが…君達は、エストラの小学生だろう?」
ダリスはそう言われて、ハッとした。
自分達は今、エストラの制服を着ている。一目見れば、エストラの生徒だと分かってしまう。
まさか、エストラに連絡がいくのか。ダリスが内心冷や汗をかいていると、警備隊の男は穏やかに笑った。
「なに、悪いようにはしない。暴れるトロールを無力化してくれたのだ、本来なら感謝状ものだ。とはいえ、今は家に帰るのが先だ。お父さんお母さんに、連絡は取れるかい?」
「あ、はい」
何だか、拍子抜けしてしまった。だが、それがありがたかった。ダリスは懐から携帯を取り出し、自身の両親へと電話をかけた。
だが、しばらく鳴らし続けても繋がらない。ダリスの両親は共働きであり、ダリスがエストラから帰ってくる時間帯にはまだ帰宅していないことも珍しくはなかった。
ーーー予想はしていた。ダリスは早々に電話を切り、ミノトの母親へと電話を入れることにした。
「…んん…」
ダリスの腕の中で、ミノトがもぞもぞと動いている。今までもミノトが泣き疲れ、ダリスが支えることは何回かあった。その度に、ミノトの両親に連絡していたので、抵抗は然程なかった。
「あら、ダリス君?こんな時間に、どうしたの?」
少しすると、すぐにミノトの母親が電話に出てくれた。掃除でもしていたのか、その電話の向こうから掃除機らしき音が聞こえてくる。
相手が穏やかな態度過ぎて、事実を言いにくい。だが、お迎えを頼むためには、伝えなければならない。
「また娘が、迷惑でもかけちゃった?」
「い、いえ、そういうわけではないんですが。実はですね…」
ダリスは少し躊躇いながらも、電話の向こう側にいるミノトの母に、事情を話した。
事情を話すと、電話の向こう側から聞こえていた掃除機の音が、消えた。それと同時に、ミノトの母の吐息だけが聞こえてくる。
「え?は…?と、トロール…?」
「警備隊に通報が入り、すでに無力化はされてます。僕の両親はまだ仕事なので、お迎えお願いできますか?」
「す、すぐ行く!!待ってて!!」
それだけ言うと、即座に電話を切られた。電話の向こう側の母親は、相当に慌てていたようなので、即座に駆けつけてくれるだろう。
ダリスは、大人しく待っていることにした。




