魔獣制圧
魔獣は、周囲の建物を破壊しながら暴れている。その大きさは、その辺の熊よりも大分大きい。
四足歩行のようだが、明らかに異常に大きい。かなりアンバランスな体の魔獣だ。
「グオォォオオォ!!」
魔獣は雄叫びをあげた。その雄叫びは大きく、周囲の空気をビリビリと震わせて、周囲の砂埃を吹き飛ばした。あまりの大きさに、ペルセ達も思わず耳を塞いでしまった。
「うわ!!何だよこいつ!!」
「逃げろ逃げろ!!潰されるぞ!!」
周りの人々がパニックに陥り、逃げ惑っている。誰も、こちらへは目も向けてくれない。
「くそっ…!」
「だ、ダリスぅ…」
ダリスは顔を歪ませながら周囲を睨んでいる。そんなダリスの後ろで、ミノトが情けない声をあげた。
ーーー完全な、涙声。しかも、ミノトはダリスの後ろで、完全に腰を抜かしてしまってるようで、立ち上がれなくなっている。
「オォオオオォォ!!」
再び、魔獣が咆哮する。その鳴き声に、ミノトはより大きく肩を震わせる。ダリスはミノトに駆け寄り、その肩に手を置いている。だが、ダリスの手も、同じくらいに震えていた。
ーーーだが、そんな二人とは対照的に、ペルセは驚くほどに冷静でいられた。
「…動かないでね、二人とも」
「は?…お、おいペルセ!!」
ペルセはそれだけ言うと、ダリス達を置いて、暴れる魔獣の方へと向かった。
ダリスが自分を呼ぶ声が聞こえてくる。だが、ミノトの元から動くことができないようで、追いかけてくることはなかった。
ペルセが何か言葉を発する前に、魔獣がペルセの方を向いた。その瞳は、完全に捕食者側のそれだった。
この魔獣。
姿形は、以前魔界で見たものとは大分違う。だが、この気配、この獣臭、そして独特な体型。まず、間違いない。
「…魔獣・トロール…」
ペルセは小さく呟いた。
トロール。知能は低いが力が強く、魔界でも度々町に被害を及ぼす魔獣の一体だ。知能が低いゆえ、欲望を抑える理性がない。
魔界にも現れる魔獣であるためか、アモディエナから教わったことがあった。
「グァァアァァァァッ!!」
ペルセを認識したトロールは、獲物を見つけたと言わんばかりに、よだれをまき散らす。
ーーー汚い。とても下品だ。
ペルセは軽く身をひねり、よだれが体にかからないようにかわした。
いくら咆哮をされても、あまり怖くない。正直、鍛錬の中で魔力を吹き出した父や母の方が、よっぽど怖い相手だった。
とはいえ、いつまでも悠長に構えてる気もない。ペルセは自身の中で、魔力を練り上げる。相手を消し飛ばさない程度に抑え、かつ無力化できる威力を保持した魔力を、その手に宿した。
自身の手に、慣れ親しんだ白い魔力が現れる。父由来の、白い魔力だ。
「ガァァァァァッ!!」
ペルセが目を向けると、トロールは何の迷いもなく、ペルセへと襲いかかってきた。
それに対しペルセは、トロールの眼前に、魔力を宿した手を突き出した。
「…ちょっと静かにしててね」
ペルセはそのまま、トロールの顔面に自身の魔力をぶつけ、トロールを吹き飛ばした。




