下校と事件
「ふんふんふーん」
道中、ミノトは鼻歌を歌いながらのんきに歩いている。ルートに関して、全く把握してるようには見えない。
「…ミノト、大丈夫なの?」
「何が?」
「ルート確認してないけど…」
心配になったペルセが声をかけるも、ミノトは不思議そうな表情を浮かべていた。そのまま、ミノトは前を歩くダリスの方へと視線を向けた。
「ダリスがいるなら大丈夫!」
「…お前なぁ…最初っから丸投げするつもりだったろ」
「そっ…ソンナコトナイヨ」
呆れたダリスが言い返すと、ミノトは不自然に視線を逸らしている。聞くまでもなく、絶対に嘘だと分かる反応だ。
ダリスももう何も言う気が起きないらしく、尻尾で軽くミノトの頭を叩くだけで済ませ、道案内を続けてくれた。
「あ、ねぇねぇペルセちゃん!あそこの店に寄らない!?」
「店?」
「あそこ、すっごく可愛い文房具売ってるんだ!!」
ミノトが指さす先には、一軒の店がある。店の外にあるのぼりやポスターからすると、確かに文房具を売ってる店のようだ。
ミノトはペルセの手を引き、そちらへ向かおうとしていた。
「ミノト」
すると、それを聞いていたダリスが、若干の苛立ちを見せながら、ミノトを呼んだ。その声に、ミノトはダリスの方を向いた。
「何さぁ〜…」
「何じゃない。寄り道したらラウラ先生に怒られるだろ」
「もぅ…真面目だなぁ…」
ミノトは文句を言っていたが、寄り道自体は諦めたらしく、頬を膨らませながら戻ってきた。ダリスは少し眉間にシワを寄せながらも、ミノトが戻ったことを確認すると再び歩き出した。
「ダリスー、ちょっとくらい遊ばないー?」
「ダメだ」
「ケチ!せっかくペルセちゃんもいるのに!」
「いつも真っすぐ帰れと言われてるだろ。せめて休みの日まで我慢しろ」
何を言われても、ダリスが揺らぐ様子はない。ミノトはなおも納得していないようだが、それでもダリスに歯向かう気はないらしく、大人しくその後ろを歩き続けていた。
この二人の帰り道は、いつもこんな調子なのだろうか。ミノトは不満そうな顔だが、その裏側に見える感情に、ダリスを嫌うものは全く見えない。ダリスも同様だった。
ーーー何だか、下らないことで言い合える二人が羨ましかった。
「休みの日に遊ぶことなら、できるんじゃないかな…?」
「お!じゃあ今度の休みに遊ぶ!?」
ペルセが何気なく一言漏らすと、ミノトが即座に食い付いてきた。反応が早すぎて、思わず少し身構えてしまった。
「じゃあさ、今度の休みの日は、私がこの辺りを案内するよ!たくさん、面白い場所を紹介する!!」
「いいの?」
「もちろーん!!」
ミノトは本当に嬉しそうだ。その笑顔を見て、釣られるようにペルセも笑ってしまっていた。
ミノトはカバンの中から、グシャグシャになった手帳を取り出した。手帳の表紙には、『生徒手帳』と書かれている。その手帳を開き、ミノトは何かを確認している。
「…うん。今度の休みなら、一日空いてるね!私は朝から遊べるよ!ペルセちゃんは何時から行けるかな?」
どうやら、予定を確認していたらしい。
自分が何時から行けるか。まだ二日目なので、その感覚は分からない。
ペルセが答えに困っていると、前を歩いていたダリスが急に歩みを止めた。
「どしたの、ダリス?」
「…この匂い…」
ダリスはミノトの問いに答えなかった。だが、明らかに何かを感じ取っている。
ペルセもデメナ達との訓練で身につけたやり方で周囲に気を配ってみた。すると、確かにおかしな生物の気配があるのを感じた。それも、どんどんこちらに近づいてきている。
ーーーそれに伴い、どんどん周りが騒がしくなってきていた。地面を揺らす音と共に、街行く人々の叫び声や悲鳴が聞こえてくる。
そしてついに、ペルセ達の前に、全身茶色の体毛で覆われた、まるで雪男のような巨大な魔獣が現れた。




