魔法壁破損要因
「存在を…許してもらえない…」
あまりに突飛のない話に、ラウラは言葉をオウム返しにすることしかできなかった。
魔力を打ち消す手段は、いくつかある。具体的には、相手の魔力を上回る出力で押しつぶすこと、魔力を解析して霧散させること等があげられる。
だがどれも、結局は出力と技巧の勝負になる。それが、魔力を戦闘運用することにおける、基本理論だ。
だが、ヴァーレアの言ってることは、その基本を根底から破壊している。
出力も技巧も関係ない。異常に純度の高い魔力が、異物を自動で排除している。ラウラには、そう聞こえた。
「そがんか魔力が、あると…?」
エルフィーでさえも、絶句している。
そんな魔力が存在することが、いかに異常か。エルフィーも、それを分かっているようだ。
「…今回の魔力壁の破壊も、同じ原理だと思う。魔王の資質を持つ魔力が修復魔法壁と接触して、魔法壁の魔力の存在を許さず、『制圧』して無力化してしまった、ってとこじゃないかな…」
ヴァーレアは震えながらも、結論を出した。
確かに、話を聞く限りでは、論理は通ってるように聞こえる。
だが、それが要因だとするなら、今までの魔力運用論を根底から見直さなければならなくなる。それほどの、異常な魔力だ。
ーーーそんな魔力を、ペルセが持っている。しかもそれは、父親由来であると。
だが、魔王の資質というのなら、ペルセの父親は王ではないのか。そんな疑問が、頭に浮かんだ。
「…一つ、疑問なのですが」
「何?」
「クロニオス様…ペルセさんのお父様は、No.2であって魔王ではないんですよね?それなら、魔王の資質は…」
「…うーわー…そこ聞くんだ…」
質問をされたヴァーレアは、苦笑いを浮かべている。だが、気になったものは仕方ない。
隣でエルフィーが「まだ聞くのか…?」と言いたげにこちらを見ているが、それを無視し、ヴァーレアの方を見続けた。
ヴァーレアは気まずそうに頭を掻きながら、遠慮がちに口を開いた。
「魔王の資質は、別に顕現したからと言って魔王にならなきゃいけないとは限らないんだ。今の魔王であるサトゥニア8世様も、魔王の資質は持ってると聞いたことがある」
「そうなんですか…」
「ただね、クロニオス様はサトゥニア8世様の従兄弟だよ」
衝撃。
ヴァーレアは軽いトーンで補足を入れたつもりのようだが、ラウラの頭には別な衝撃が走った。
ヴァーレアの言うことが本当なら、ペルセは魔王の血族にも名を連ねる存在であることになる。
「…ラウラ先生…そろそろ、終わらん…?ウチ、もう限界ばい…」
「そうですね…これは、整理するのに、かなり時間がかかりそうです」
本音を言えば、まだ聞いてみたいことはある。だが、今でさえ情報が多すぎるし、本題である修復魔法壁の破損要因は分かったのだから、これ以上掘る必要はない。
疲弊しきった二人の様子を見て、ヴァーレアも苦笑いを浮かべていた。
「ボクも驚いたからね…。白い魔力の時点でもしやとは思ったけど…」
「求められてないのに、憶測だけで情報共有しない、というのは正解ですが…今回に限っては、心の準備が必要でしたね」
ラウラはそう呟きながら、職員室の給湯室へ、エルフィーも分も含めて二杯のコーヒーを淹れに向かった。




