下校
午後の授業も、午前中と同じように進んでいった。
午前とは少し異なり、魔術の歴史や理論の話などが中心であった。
特に歴史については、ペルセも知らないことだらけで、何だか新鮮で、面白い話のように聞こえた。
休み時間になれば、あいも変わらずミノトがペルセに絡んできた。だが、午前中と比べると、ミノトを通じて、ペルセに近寄ってくる生徒が少し多くなっていた気がした。
そして、日が傾き始める時間帯となった。
授業が全て完了し、さすがのミノトもかなり疲弊しているようだ。
「うぇ〜…今日も疲れた〜…」
「そりゃお前、朝からあのテンションだったしな…」
ミノトは机に突っ伏している。
だが、当然と言えば当然だろう。朝からペルセにハイテンションで絡んできたかと思えば、一日中そのテンションのままで過ごし続けたのだから。
後ろに座るダリスも同じ事を思ったのか、呆れたように尻尾を垂らしている。
「さて、皆さん」
すると、ラウラが教壇に立った。その瞬間、皆の視線がラウラの方へと向いた。自然と、ペルセの視線もそちらへと向く。
「今日は留学生が来たということで、大きな動きがあった一日でしたね。あと20日程度ありますので、皆さん仲良くしてあげてください。それでは皆さん」
ラウラはそこまで言い切ると、ゆっくりと全体を見回した。
一体何を言う気なのか。戦々恐々としながら、ペルセはラウラの一言を待っていた。
「…さようなら」
「先生さようなら!!」
ラウラの挨拶とともに、生徒が元気よく叫んだ。そして、それと同時に、荷物を抱えた周りの生徒が、ラウラに挨拶をしつつ、続々と教室から出て行き始めた。。
どうやら、これで帰宅ということになるらしい。
「ペルセちゃんはどうするの?もし何もないなら、私達と一緒に帰る?」
「おい待て。何で俺まで巻き添えなんだ」
隣で突っ伏していたミノトが、ようやく顔を上げる。その隣で、ダリスが不満を隠そうともせずにミノトへ文句を言っていた。
ペルセはそんな二人を眺めていた。そうしていると、少し気になったことが出てきた。
「二人って、一緒に帰ってるの?」
先程の生徒達の動きを見た感じでは、各自で帰っているようだった。だが、ダリスは文句を言いつつも、ミノトを置いていこうとはしていない。
ミノトは少し唸りながら、少し声を詰まらせつつ口を開いた。
「いつもじゃないよ?今日は特に何もないから、一緒に帰るだけー」
「一緒に帰るっつーか、お前が引っ付いてくるっつーか」
「どうせ方向は同じじゃん!!」
ーーーやっぱり、この二人は仲良しだ。
マールとハイーラは同性だったが、異性でここまで仲の良い二人は、夫婦である自分の両親以外では見たことがない。
だが、ペルセの今の保護者はラウラだ。ラウラの指示なしに動くわけにはいかなかった。
「うーん…でも私は…」
「ペルセさん」
どう言えばよいか迷っていると、後ろからラウラに声をかけられた。振り向くと、荷物をまとめ終わったラウラが立っていた。
「ミノトさん、ダリスさん。先に帰って大丈夫ですよ」
「え…?ラウラ先生…」
「何の因果か、この子の人間界での保護者、私になったので」
「えぇ〜!?それを早く言ってくださいよぉ!!」
ミノトはラウラに対し、抗議の声を上げた。だが、すぐに切り替えたようで、隣にいたダリスの腕を軽く引っ張っている。
「んじゃ、ペルセちゃん!また明日ね〜!!ダリス、帰ろ!!」
「分かった、分かったから引っ張るんじゃない。つか毛を掴むな、抜ける」
ダリスはミノトに引っ張られながら、ミノトと共に教室を後にした。
しばしの静寂。
これからラウラと一緒に帰ることになる。
だが、ペルセには一つ懸念があった。
「ラウラさん、職員室でのお仕事が…」
「あぁ、それですか」
ラウラは何か思いついたように言うと、鞄の中から無数の紙の束を取り出した。
具体的には分からない。だが、明らかに学校でやらなければならない仕事なのは明らかだった。
そんなものを出して、一体何なのか。不思議に思っていると、ラウラは口を開いた。
「あなたが留学している期間、一部業務を家に持ち帰って進める許可を、学長からいただいています。ですので、心配はいりませんよ」
ラウラはそう言うと、取り出した紙の束をカバンへ乱雑に戻した。
そして、何の迷いもなく教室の外へと向かって歩き出した。
「…帰りましょうか、ペルセさん」
「え、あ、は、はいっ!!」
ペルセは慌てて荷物をまとめると、ラウラの後を追いかけた。




