初めての昼休み
給食の時間が終わった。
片付けも終わらせた教室の中には、生徒がほとんど残っていない。皆して、外に遊びに行ったようである。
だが、ペルセはそれを選ばなかった。外遊びが分からない、というのもあるが、何よりもーーー
「ダリス〜、もっとペルセちゃんと仲良くしようよー!!」
「何で俺まで巻き込むんだ、ふざけんなよお前」
ミノトがまだまだ一緒にいたい、と言ってくれたからだ。もっとも、その横にはダリスもいたが。
だが、ダリスも口では嫌がっているが、本気の拒絶をしているようには見えない。呆れてはいたものの、離れようとはしなかった。
ペルセはそんなダリスを物珍しそうに見た。
狼の獣人。制服の袖口から見える体毛と、頭に生えてる犬の耳、そして臀部から生えてる尻尾が、ダリスが人間ではないことを如実に示している。
「…やっぱり、魔界の悪魔から見ても、獣人って珍しいのか?」
ダリスは視線に気付いたようで、自身の腕を眺めている。
ペルセはダリスの問いに、カクカクと頷いた。魔界には魔獣はいても、獣人なんてものはいなかった。
ペルセの反応を見たダリスは、小さく笑った。
「だよなぁ…。やっぱ、あんまりいないんだな」
「ど、どういうこと?」
そう言うダリスの表情は、少し寂しそうだった。ペルセは不思議そうに首を傾げた。
「獣人ってのは、人間に獣の特性を上乗せしたような種族らしいんだ」
「獣…?」
「俺だったら、狼だな」
ダリスはそう言うと、自身の鼻の下を指でなぞった。
狼の特徴を上乗せしてる、ということなのか。
噛み砕いて理解を試みていると、ミノトが口を開いた。
「そうそう!だからダリスってね、足速いし鼻がいいし、しかも強いんだ!!」
「…お前黙っててくんね?」
「褒めたのに!?」
ミノトは心底意味が分からないようで、ダリスに突っかかった。
だが、そのおかげでペルセは理解ができた。
狼という生き物自体は、魔界でも存在はしている。犬に近い肉食の生き物で、群れで狩りを行う動物だ。
目の前にいるダリスは、人の体に狼の要素が付け加えられてる、ということらしい。
「…まぁ、獣人って種族は、この数百年でかなり少なくなったらしいけどな」
「えっ?」
「俺も詳しくは知らない」
少なくなった、と言ったか。それは一体、どういうことか。だが、ダリスも詳しい事情を知ってるわけではないようだ。
ダリスの物憂げな表情を見て、ミノトは開きかけた口をつぐんだ。さすがに、この場面では口を挟むことを止めたようだ。
普段からそのくらい、律してくれればいいだろうにーーー。
「でもね!ダリスって、魔力強いんだよ!!エストラで実習してても、このクラスの中で誰にも競り負けないんだよ!!」
「黙ってろって言ったよなお前!?」
「実習でペルセちゃんとダリスが魔力ぶつけたら、どっちが強いんだろう…!!ペルセちゃん、悪魔だから…!!」
やはり、我慢は長くは保たなかったらしい。感心していたのが、一瞬で壊された。
とはいえ、他種族との魔力のぶつけ合いについては、ペルセも気になるところだ。
今まで、悪魔同士でしか魔力をぶつけたことはない。だが、ここにいる悪魔は、ヴァーレアしかいないのだ。
もし仮に、エストラで実際に魔力を使う授業をやるならば、そう言った機会も来るかもしれない。
実現したらどうなるのか、ペルセにも予想はつかなかった。
「…実習って、どんなことするの?」
「色々あるよ!例えばー…」
ミノトはそう言うと、指折りで何かを数えながら唸り始めた。
そんなに種類があるのか。そう思いながらしばらく待つも、ミノトは唸り続けるだけで、何も言葉を発してこない。
「…お前、説明できないんだろ」
その静寂を破るように、ダリスが口を開いた。その瞬間、ミノトは頬を膨らませながらダリスを睨みつけた。
「ち、違うもん!そんなことっ…!」
「あるだろ。つーかそもそも、お前にそんな具体的な説明ができるなんざ思ってない」
「酷い!幼馴染を信じないの!?」
「信じないっていうか、期待してない」
「なんでぇ!?」
ダリスはばっさりとミノトを切り捨てている。ミノトは不満げだが、それを強く否定できないあたり、思い当たる節があるのかもしれない。
ダリスは一息吐きながら、口を開いた。
「…まぁ、やってみりゃ分かる」
「ダリスだって説明してないじゃん!」
「そっちのほうが早いだろ」
何だか、難しい言葉が出てきた。だが、少なくともこの場で説明する気がない、説明のしようがないことだけは分かった。
ダリスとの話は、ミノトを相手にするときとは違い、穏やかに進めることができた。
ーーー気付くと、学校の昼休みは、あっという間に終わってしまっていた。




