狼の獣人・ダリス
ペルセは静かに、コーンサラダを口へ運ぶ。
ーーー美味しい。
コーンのプチプチした食感と、レタスのシャキシャキ感。魔界にも野菜というものはあるが、魔力加工がされてることもあってか、ここまでの新鮮味はない。
続けて、豚汁を口に含む。薄めの味付けだが、肉にと汁がよい具合に染み込んでおり、経験のない風情を感じる。
そのまま、鯵の開きにも手を付けた。こちらも野菜同様、新鮮味がある。やはり、人間界では魔力が薄い都合上、食料の保管に魔力を使っていないようだ。
「今日の人間向け献立は当たりだぁ〜!!」
隣で、ミノトが嬉しそうな声を出している。やはり、ミノトにとっても美味しいもののようだ。
すると、その後ろで肉を頬張っている少年が、苦々しい表情で言葉を発した。
「…いつも思うが、お前静かに食えないのか?」
そこには、もはや呆れが入っている。少年、ひいてはクラスにとって然程珍しい光景ではないのだろう。
ミノトは豚汁の入った器を持ったまま、後ろを向いた。
「美味しいものを美味しいって言って何が悪いの?」
「いや悪くはねぇんだけど…」
「だったらいいじゃん!ねぇ、ペルセちゃん!」
ーーーなぜか、流れ弾が飛んできた。
いきなり話を振られて、ペルセの箸と思考が止まる。
一体、何だ。どうすればいいのか。同意でもしてやればいいのか。
そんな事を考えてると、少年はこめかみを抑え、大きくため息をついた。
「…何でそうなるんだよ…しかも今日来たばかりの留学生相手に…」
「え?」
ミノトは豚汁を頬張りながら、首を傾げている。しかし、すぐに本人の中で合点がいったらしく、何か閃いたかのような表情を浮かべた。
「あ、そうだよね!まだ自己紹介してないじゃん!!」
そのひと言で、ペルセの意識が現実へと引き戻された。
自己紹介。それなら、少なくともペルセの分は、朝の会の時に皆の前でやっている。
だが、ミノトの視線はこちらに向いていない。自身の後ろの席に座る、狼の獣人の少年へと注がれている。
「お、お前なぁ…はぁ…」
少年は尻尾を数回振ったあと、ペルセの方へ体ごと向けてきた。
机の下に隠れていた体が、ペルセの視界に写る。ペルセやミノト、他の男子生徒よりも一回り大きな体だ。そして、袖口からは一部黒色の体毛が見え隠れしている。
「…このバカがごめん。俺が代わりに謝るよ」
「ちょっと!?バカって何!?」
少年はミノトを指差しながら、はっきり「バカ」と言った。ミノトは抗議の声を上げたが、全く意に介していない様子で言葉を続けた。
「ペルセさん、だったっけ?」
「う、うん」
「俺はダリス。そこにいるバカとは…まぁ…長い付き合いだ」
ダリスの言葉に、ミノトはまだ文句を言っている。だが、ダリスは聞こえてないふりを続けていた。
昔なじみ、ということなのだろうか。そう考えると、なんだかマールとハイーラを思い出させるような関係性だ。
と言っても、あの二人と比べると、しっかり者がいるという点は共通しているが、その相方であるミノトはマールとは対照的だ。
非常に、うるさい。
鯵の開きを頬張りながら、ペルセはそんな事を考えていた。
「で!で!ペルセちゃん、今日の給食、悪魔から見ても当たりだよね!?」
「その話、まだ続くのか…?」
ダリスの呆れた様子を横目に、ペルセはこの二人と一緒に話をした。といっても、ほとんど喋っていたのはミノトだったが。
なお、話し続けているうちに、時間をオーバーしそうになってしまい、ミノトはラウラに叱り飛ばされてしまうのであったーーー。




