初めての文化体験ー美味しそうな食事ー
---ハイーラの家は、中もマールの家とは対照的だった。
とにかく、物が散らかっていない。マールの家には、使われたゴミがあちこちにあったのに。こんなに綺麗で整った空間を見るのは、初めてだ。
部屋の真ん中に、整えられた机と椅子が置いてある。そして、机の上にはーーー
「わぁ…!!」
店で見かけたパンなど、比べ物にならない。机の上には、湯気をあげる黄色の液体が入った白い容器と、暖かそうな米の入った縦縞の容器が乗っていた。
そして、机の真ん中には、少ししなだれたように見える野菜に、何か液体がかかっているような食べ物があった。
どれもこれも、今まで見たことがない。しかし、それぞれの食品から漂ってきた良い匂いが、ペルセの鼻に流れ込んできた。
ーーー食べたい。
思わず、ペルセはつばを飲み込んだ。そして、思わず手を伸ばしそうになった。しかし…
「ぁ…」
店での光景が、頭によみがえった。あの時も、こんな風に、いい匂いに釣られて食べたら、怒られたのだ。今、ここで食べたら、ハイーラやマールに叱られるのではないだろうか。その思いが、ペルセの手を止めた。
「…そこに座っていいわよ。あともうちょっとしたら、メインディッシュできるから」
そんなペルセの想いを知ってか知らずか、ハイーラはペルセを優しく椅子の方へと案内した。
「ちょっと〜、私は〜?」
「アンタは手伝いなさい。この子連れてきたのはアンタなんだから、ある程度やってもらうわよ」
「え〜」
文句を言ってきたマールに対し、ハイーラはペルセから視線を外し、部屋の奥へと消えていった。マールも、少し不満そうな様子ではあったが、そんなハイーラの後をついていった。
ーーー今なら。
誰も、自分を見ていない。
ーーー目の前にあるものにかぶりつきたい。
でも、マール達に怒られたくない。
椅子に座ったペルセは、いい匂いがしてくる目の前の食べ物に、何度も手を伸ばそうとした。しかし、指先が机の上で止まる。どうしても、店での出来事が頭に浮かび、食べることができなかった。
「…そういえば、めいんでぃっしゅが来るって…」
無意識に伸びそうになる手を何とか止めながら、ペルセはハイーラ達のいる方向を見た。
その方向からは、何かが弾けるような音が聞こえてきている。同時に、目の前にある野菜や米とは違った、強い匂いが漂ってきた。
再び、ペルセはつばを飲み込む。一体、どんな物が出てくるのか。
ーーーでも、自分が食べてしまっていいのか。
許されるなら、今すぐ目の前の野菜や米も食べてしまいたい。しかし、ハイーラからまだ食べていいとは言われていない。
…まだ、食べるときではないのかもしれない。
そう判断し、ペルセが大人しく待っていると、奥からハイーラ達が戻ってきた。
「…先に食べてても良かったんだけど…まぁいいわ。お待たせ」
ハイーラが差し出したものは、白い皿の上に乗せられた、丸くて茶色い肉の塊だった。その上に、赤い液体がかかっており、ゆっくりと表面を流れている。
部屋の奥からでも強かったが、目の前に出されると、湯気にのせられた匂いは、より強烈だった。
食べたい。
食べたい。
ーーー食べたい。
ペルセの口から、知らない間に何かが出てきた。
「ちょっと〜、口からヨダレ出てるよ〜…」
隣に座ってきたマールは、そのまま紙でペルセの口元を拭いてきた。
だが、そんなこと言われても、止まってはくれない。
そんなマールの目の前には、ペルセのものとは違った、茶色くて分厚い肉の塊が乗った鉄板が置いてある。そちらも、いい匂いがしており、気になってしまう。
「…ダメだよ〜。これは私の〜。キミのはそっちのハンバーグ〜」
ペルセが見ていることに気づいたマールは、自分の前に置いてある鉄板を、ペルセの視界から隠すように腕で覆った。
ーーーさすがに、それを言われて、横取りをするつもりはない。ペルセは大人しく、マールの方から視線を外した。
「さて、じゃあ…食べていいわよ。存分に召し上がれ」
ハイーラのその優しい声が、ペルセの理性を破壊した。
ーーー次の瞬間、ペルセの手が動き始めた。




