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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第二章 上位の町・アスティアノ
21/67

初めての文化体験ー美味しそうな食事ー

 ---ハイーラの家は、中もマールの家とは対照的だった。


 とにかく、物が散らかっていない。マールの家には、使われたゴミがあちこちにあったのに。こんなに綺麗で整った空間を見るのは、初めてだ。


 部屋の真ん中に、整えられた机と椅子が置いてある。そして、机の上にはーーー


「わぁ…!!」


 店で見かけたパンなど、比べ物にならない。机の上には、湯気をあげる黄色の液体が入った白い容器と、暖かそうな米の入った縦縞の容器が乗っていた。

 そして、机の真ん中には、少ししなだれたように見える野菜に、何か液体がかかっているような食べ物があった。


 どれもこれも、今まで見たことがない。しかし、それぞれの食品から漂ってきた良い匂いが、ペルセの鼻に流れ込んできた。


 ーーー食べたい。


 思わず、ペルセはつばを飲み込んだ。そして、思わず手を伸ばしそうになった。しかし…


「ぁ…」


 店での光景が、頭によみがえった。あの時も、こんな風に、いい匂いに釣られて食べたら、怒られたのだ。今、ここで食べたら、ハイーラやマールに叱られるのではないだろうか。その思いが、ペルセの手を止めた。


「…そこに座っていいわよ。あともうちょっとしたら、メインディッシュできるから」


 そんなペルセの想いを知ってか知らずか、ハイーラはペルセを優しく椅子の方へと案内した。


「ちょっと〜、私は〜?」

「アンタは手伝いなさい。この子連れてきたのはアンタなんだから、ある程度やってもらうわよ」

「え〜」


 文句を言ってきたマールに対し、ハイーラはペルセから視線を外し、部屋の奥へと消えていった。マールも、少し不満そうな様子ではあったが、そんなハイーラの後をついていった。


 ーーー今なら。

 誰も、自分を見ていない。

 ーーー目の前にあるものにかぶりつきたい。


 でも、マール達に怒られたくない。


 椅子に座ったペルセは、いい匂いがしてくる目の前の食べ物に、何度も手を伸ばそうとした。しかし、指先が机の上で止まる。どうしても、店での出来事が頭に浮かび、食べることができなかった。


「…そういえば、めいんでぃっしゅが来るって…」


 無意識に伸びそうになる手を何とか止めながら、ペルセはハイーラ達のいる方向を見た。

 その方向からは、何かが弾けるような音が聞こえてきている。同時に、目の前にある野菜や米とは違った、強い匂いが漂ってきた。


 再び、ペルセはつばを飲み込む。一体、どんな物が出てくるのか。


 ーーーでも、自分が食べてしまっていいのか。


 許されるなら、今すぐ目の前の野菜や米も食べてしまいたい。しかし、ハイーラからまだ食べていいとは言われていない。


 …まだ、食べるときではないのかもしれない。


 そう判断し、ペルセが大人しく待っていると、奥からハイーラ達が戻ってきた。


「…先に食べてても良かったんだけど…まぁいいわ。お待たせ」


 ハイーラが差し出したものは、白い皿の上に乗せられた、丸くて茶色い肉の塊だった。その上に、赤い液体がかかっており、ゆっくりと表面を流れている。

 部屋の奥からでも強かったが、目の前に出されると、湯気にのせられた匂いは、より強烈だった。


 食べたい。

 食べたい。

 ーーー食べたい。


 ペルセの口から、知らない間に何かが出てきた。


「ちょっと〜、口からヨダレ出てるよ〜…」


 隣に座ってきたマールは、そのまま紙でペルセの口元を拭いてきた。

 だが、そんなこと言われても、止まってはくれない。


 そんなマールの目の前には、ペルセのものとは違った、茶色くて分厚い肉の塊が乗った鉄板が置いてある。そちらも、いい匂いがしており、気になってしまう。


「…ダメだよ〜。これは私の〜。キミのはそっちのハンバーグ〜」


 ペルセが見ていることに気づいたマールは、自分の前に置いてある鉄板を、ペルセの視界から隠すように腕で覆った。

 ーーーさすがに、それを言われて、横取りをするつもりはない。ペルセは大人しく、マールの方から視線を外した。


「さて、じゃあ…食べていいわよ。存分に召し上がれ」


 ハイーラのその優しい声が、ペルセの理性を破壊した。

ーーー次の瞬間、ペルセの手が動き始めた。

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