第二の受容者ーハイーラー
ーーー視線を合わされていると、妙に落ち着かない。気まずくなり、ペルセは思わず一歩下がり、マールの方に少し近付いた。
「…私は、ハイーラ。そこにいる怠け者…あぁ、マールとは…まぁ、長い付き合いの関係、ってとこかしらね」
「怠け者って酷くな〜い?」
「自分でご飯も用意できないくせに何言ってんの」
ハイーラの返しに、マールは何も言えなくなったようだ。
ーーーなんというか、言葉こそキツいが、どこかふざけ合ってるダスノムの悪魔達のような、そんな関係にも見える。多少キツいこと言っても大丈夫だ、と。まるでそう確信しているようだ。
「…失礼」
マールに言い返していたことをかき消すかのように、ハイーラは小さく咳払いをした。
「それで、お嬢ちゃん?…お名前、聞かせてもらってもいいかしら?」
ハイーラは再びペルセに視線を戻すと、先程よりも柔らかい声で話しかけてきた。
じっと、目を見られている。
目の前にいるハイーラは、怖くない。そう、思っている。答えなければならない。それも分かっている。なのに、口は動かない。
「この子はね〜」
「アナタには聞いてないわよ。この子に聞いてるの」
「え〜」
ペルセが言葉を発せずにいると、マールが口を開いた。しかし、その発言を、ハイーラは遮った。
マールは不満そうな声をあげているが、ハイーラはマールに言葉を返した後、再びペルセの方を見た。
ーーー沈黙。
ペルセは知らず知らず、マールの体に身を寄せていた。まるで、隠れるかのように。
ハイーラは、特に急かしてきていない。しかし、ここまで見つめらている。それが口が重くした。
「…あんまり、見つめないであげたら〜?さすがに、そんなガン見されてたら、言いにくいと思うよ〜?」
そんなペルセの背中に、マールが優しく手を添えてきた。頭を洗われたときにも感じた、包みこまれるような感覚ーーー。不思議と、力が抜けた。
「…それもそうか…」
ハイーラはマールからの言葉を受け、ペルセの顔から視線を外した。少し、戸惑っているようにも見える。
しかし、視線が外れたことで、不思議と重さがなくなった。これなら、言える。
「ペルセ…です…」
ペルセは蚊の鳴くような声で、ハイーラに言った。ハイーラの耳は、その声を聞き逃さなかった。
「ペルセちゃん、ね。ありがと、答えてくれて」
ハイーラの表情が、一気に柔らかくなった。それと同時に、ペルセの頭に、何かが乗ったかのような感触があった。
「よく言えたね〜」
マールの手だ。その手は、ペルセの頭をゆっくりと、しかし優しく撫でている。頭を洗っていたときとは真逆で、そこには全く力が込められていなかった。
「…さてと。それじゃ中に入ってちょうだい。あまり外でああだこうだ言ってても仕方ないし」
「それもそうだね〜」
そう言うとハイーラは立ち上がり、ペルセ達に背を向けた。そして、家の中へと戻っていった。
「それじゃ、行こっか〜」
マールはペルセの手を引こうとした。しかし、ここに来るときと異なり、ペルセは自分でハイーラの案内に従い、歩き出した。
「…よっぽど、お腹すいてるんだね〜」
…そんなマールの独り言は、ペルセには聞こえなかった。




