同じ魔界で、違う世界
…どれほど、時間が経ったか。
目を閉じ続けているペルセには、それを確認する方法はない。
しかし、徐々に周りの音が違ってきていることに気付く。何だか、先程いた場所にしては、ザワザワしている。
「ん〜…もう着いたよ〜」
マールの気の抜けた声が聞こえる。それに従うように、恐る恐る目を開ける。
ーーーそこに広がっていたのは、今まで見たことのない光景だった。
魔界の暗い空の中で、やけに明るい橙色の光が、いくつもぶら下がっている。壺のような形をしたそれは、見たこともないものだった。
…少し、目が痛い。
ダスノムや、さっきまでいた町と比べると、空気がどこか違う。少し重いような、体にまとわりつくような感覚があった。
ーーーなのに、不思議と嫌ではなかった。
「お〜…相変わらずだね〜、ここは〜」
「え…?相変わらず…?」
マールは特に驚いた様子もなく、周りを見ている。
つられるように周りを見てみると、ダスノムでは見たことのないものが、あちこちの建物の中に並んでいるのが分かった。それらからは、近づかなくても、何かがあると分かるような気配がした。
「んじゃ〜、行こうか〜」
マールはそう言うと、ペルセの手を軽く引いた。
周りを見ていたが、そのまま歩き出すしかなかった。
ほとんど歩いた気がしないうちに、マールは足を止めた。
「ついたよ〜。ここ、ここ〜」
のんびりとした様子で、目の前の家を指差す。
……マールのボロボロだった家とは、まるで違う。壁にはヒビ一つなく、余計なものもついていない。きれいに整えられている。
建物の外には、少し張り出した場所があった。そこにも、整えられた空間が広がっている。
「…なに、ここ…?」
「ちょっと待っててね〜」
マールはそう言うと、壁の黒いボタンに手をかざした。その手のひらは、マールの髪の色と似た、薄い紫色の膜のようなもので覆われている。…あれは、なんだろうか。
マールが手をかざしてしばらくすると、扉の向こう側から、中を駆け回るような足音が小さく聞こえてきた。足音は、段々近づいてきている。
「…ッ…」
嫌な者が来るはずもない。それは分かっている。なのに、思わずマールの手を強く握ってしまう。
マールはそんなペルセの様子など気にしてない様子で、手をかざし続けながら、扉を眺めていた。
「あ〜、来た来た〜」
木でできた扉が、ゆっくりと開かれる。それと同時に、マールはかざしていた手を下ろした。扉の向こうに、一人の悪魔の女性が見える。
中にいた悪魔は、自分よりは大きい。けれど、マールと比べると一回り小さい。
その悪魔は、体に沿うような服の上に、白い布を重ねていた。腰のあたりで結ばれていて、下に垂れている。マールのように肩が出ているわけでもなく、隠れてる部分も多い。
…どこかで、似たような格好の話を聞いた気がする。
ゴミ山で、誰かが笑いながら話していた時だったか。
確かーーー「めいど」とか、そんな言い方をしていたような気もするが、よく分からない。
また、薄い紫の髪を1箇所で結んでるマールと違い、明るい赤色の髪を、左右2箇所で結んでいるのが目についた。
何より、マールに生えている羽根と似たものが、その背中に生えている。
「…あんたさ〜…いきなり来るとか言われても困るんだけど〜…」
その悪魔は、隣にいるマールを見ながらため息を付いている。…この悪魔が、さっきマールが言っていた「知り合い」、なのだろうか。
「連絡入れたじゃ〜ん」
「いや来る直前に言われても困るのよ?色々用意もあったり、転送陣も展開しなきゃだったりでさ…。おかげで、こっちはバタバタだったんだから。…まぁ、今更か」
さして気にしてない様子のマールに、相手は呆れた様子だ。それと同時に、どこか諦めてるような様子でもあった。
「…で、それで」
それだけ言うと、相手は自然な動きでベルセの前にしゃがみ込み、ペルセに視線を合わせてきた。




