物語の転換ーペルセの大移動ー
「…この前、『たまにはそっちから来い!』って怒られたっけ〜」
マールが、何か言っている。
けれど、頭に入ってこない。
「持ってきてもらっても、腐らせちゃうからな〜。前もらった食料も、確かもう腐らせちゃったし〜」
…今、何て言った?
――そんなこと、できるのか。
「…え?持ってきてもらう…?」
「あれ、口に出てた〜?まぁいいや〜」
マールは気にした様子もなく、言葉を続けた。
「私、こんな性格だからさ〜、知り合いに食料を持ってきてもらうんだ〜。ただそれで、前怒られてね〜」
「怒られる…?」
「うん。『ムダにするくらいなら、せめてそっちから来なさい!』ってね〜」
…話を聞いて、余計に分からなくなった。
食事を持ってきてもらう、というだけでも意味がわからないのに、それを腐らせるとは。マールは、普段何をしているのだろうか。
「せっかくだし〜、一緒に行く〜?」
「え…?」
呆然としていると、突然マールから誘われた。まるで、遊びにでも行くかのような軽さだった。
ダスノムで暮らしていた頃だったら、誰かに食料をせびるなんて、自分がやる以外で許されることはなかった。なのに、こんな軽いーーー。
「う…で、でも…」
「…あ、そっか〜。さすがに説明もなしで向こう行ったら、なんか言われそうだよね〜」
「え、いや…」
自分の分の食事なんて、向こうは用意してないはず。そう言おうとしたが、ペルセが口を開く前に、少し変な方向でマールが納得していた。
ペルセの言葉も聞かず、マールは自分のこめかみを指で軽く叩いた。
「ん〜…」
何をしているのだろうか。ペルセからは、ボーッとしているようにしか見えない。
マールの口元が、わずかに動いている。何か呟いているのだろうか。しかし、声は全く聞こえない。
しばらくすると、マールは指をこめかみから離した。
「…何してたの…?」
「向こうの知り合いに、キミのことを伝えてたの〜」
「は…?え、ど、どうやって…?」
どう頑張っても、喋ってるようには見えなかった。周りを見ても、マール以外に話ができる相手は、自分しかいない。
一体、何をしていたのか。それを考えてると、マールは優しく手を握ってきた。
「これで問題解決〜。じゃあ、行こっか〜」
「何が!?って、え!?今から!?」
「…お腹、空いてるんでしょ?」
「う…」
マールの問いに答えるように、再び小さくお腹が鳴った。体は嘘をついてはくれない。
「…でも、どうやって行くの?まさか、歩き…?」
「そんなに歩くわけないじゃ〜ん。ちょっとついてきて〜」
さすがに今の空腹なままで、長い距離歩くのは辛い。そう思って聞いてみると、マールはおもむろに、ペルセの手を引き、家の外へ出た。
ーーーオーレンとは違う。オーレンは、ペルセの手を引っ張ってきた。手を離せば、すぐに置いていかれそうなほどに、強く。
マールは、明らかにペルセの歩くペースに合わせてくれている。たとえ、自分が止まったとしても、マールは置いていかない。そう、感じられる何かがあった。
「お、これこれ〜」
「…ナニコレ?」
玄関前には、家に来た時にはなかった、魔法陣のようなものがある。それは、青く、不気味な光を放っている。見ているだけで、吸い込まれそうな感覚があった。
「これを使うと、知り合いの家の近くに行けるんだ〜」
「え、使うって、これ、どうやって…?」
「ま〜、入ってみたら分かるよ〜」
それだけ言うと、マールはそのまま魔法陣に足を踏み入れた。そして、ペルセを優しく招き入れてきた。
「…よ〜し、じゃあ、いくよ〜。ちょっと、目を閉じてて〜」
「あ、う、うん…」
訳も分からないまま、言われるままに目を閉じる。
耳に、何かが弾けたような、鋭い音が入る。と同時に、閉じたまぶた越しにも分かる、強烈な光が放たれた。
「うっ!?」
「ん〜…」
ーーーこの移動が、物語を大きく動かすことになるとは、この時は、まだ誰も知らないーーー




