初めての「女の子」の姿
「…うん、これでOK〜。でも次は自分からやってよ〜?」
ーーー結局、全部マールがやってしまった。
やり方は教わったし、大体分かったとは思う。けれど、これをやってなにか変わるのか。ペルセには、理解できなかった。
腕を見ると、先程まで着ていた服と異なり、自分の腕の長さにちゃんと合っている。また、肌に触れてる感触も、さっきよりずっと良い。
『したぎ』を着けている感覚には少し慣れない部分もあるが、以前よりも空気が内側を通り過ぎる不愉快さがない。
足元を見ると、膝の辺りまで黒い布で隠れている。その布は、肩からそのまま続いているようだ。
「思ったよりピッタリ〜。突貫で調節したから、ちょっと自信なかったけど、うまくいくものだね〜」
戸惑うペルセと違い、マールはペルセを見て、満足そうに頷いている。
「ほら〜、こんなに違ってるよ〜」
マールはそう言いながら、ペルセを背中を押し、大きな鏡の前に突き出した。
鏡には、自分の全身と、それを横で満足そうに見つめるマールの姿が映っている。
そこに写る自分は、もはや店の中の自分とも全く違っていた。店の中で見た時は、まだ多少汚れが肌に残ってはいたが、今はそれすらもない。着ている服も、自分の体格に合っているように見える。
少なくとも、ダスノムにいたオーレン達とは、全く違う。こんなに汚れてない姿は、見たことがない。
「…これ、本当に私…?」
「間違いなくキミだよ〜、ペルセ〜」
本当に自分の姿なのか、分からなくなってしまった。こんな風に、変わるものなのか。まるで、小さい頃に聞かされた夢物語の登場人物にでもなったかのような気分だ。
しかし、その戸惑いも、マールの一言で引き戻されてしまった。
「こういうの、やっぱり初めてなんだね〜」
「私、なんだ…」
独り言を言うマールの声も、ほとんど聞こえてこない。今の自分の姿をオーレン達が見たらーーー。
そんなことを考えていると、髪を持ち上げられたような感覚があった。鏡の中で、マールがペルセの髪に、細かい歯のついた道具を通している。
先程までであれば、指にすら引っかかっていたであろう。しかし、今のペルセの髪には全く引っかかることなく通っていく。その感触が、少しくすぐったかった。
「キミの髪、結構長いんだよね〜。背中まで伸びてるし。だから、最後にちょっと失礼するよ〜」
…確かに、自分の髪は長い。それは、ダスノムにいた頃から、オーレン達にも言われていた。けれど、こんな風にされるのは初めてのことだった。
「…キミも女の子なんだし〜、こういう手入れを少しず〜つ知っていけばいいと思うよ〜」
「女の子」。ダスノムでも言われたことがある。オーレン達男と、自分のような「女の子」は異なる存在だと。しかし、女の子であることと、今やってることに、なにか関わりがあるのか。ペルセには、よく分からなかった。
一方のマールは鏡の中で、眠そうながら、優しそうな笑みを浮かべている。何を思っているのか、その表情からは分からない。
「…よし、終わり〜」
しばらく梳き続けた後、マールは満足そうに持っていた道具を髪から離した。ようやく、あのくすぐったい感触から解放される。少し、ホッとした。同時に、もう少し味わっていたいとも思ってしまった。
「…あのっ…」
「ん〜?」
片付けに向かおうとするマールを、思わず呼び止める。ただ自分を拾ってくれただけのマールが、わざわざここまでやってくれた。ここまでやってくれたことに対して、何も言わないのがよくない、とは分かっていた。
「…ありがとう、ございまーーーッ!?」
お礼を言おうとしたタイミングで、盛大にペルセのお腹が鳴った。その音が、静かな部屋に響いた。
ーーー恥ずかしい。何だか、やけに音が大きかった気がする。慌ててお腹をおさえる。しかし、もう遅かった。
「あ〜…お腹空いてるんだね〜…。でも、う〜ん…」
ペルセの腹の音を聞いたマールは自身の顎に手を添え、困ったように首をかしげている。
「あ、そういえば〜…」
マールはなにか思い付いたように声を上げる。しかし、ペルセはそれどころではなかった。




