初の友達
窓越しでしか見えていなかった教室に、ついに入れた。教室の中からは、特有の匂いがしてくる。
嗅いだことのない匂いだった。しかしながら、あまり嫌な匂いではない。
教室というのは、こういうものなのか。窓越しでも、ましてや写真でも分からなかった。
「ペルセさん」
物思いにふけっていると、ラウラから声をかけられる。ペルセはその声に振り向き、ラウラを見た。
「アナタの座る予定の席は、あそこです。ちょうど、ミノトさんの隣ですね」
ラウラはそう言うと、窓側にある席を示してきた。他の机とも変わりない、木の机だ。
そして、ミノトの隣にあたる席らしい。
ーーー何の偶然なんだろうか。
「あと30分もしたら朝の会が始まります。それまでは、この教室内で自由に過ごしてくれて構いません」
ラウラはそれだけ言うと、教壇にノートや書類を広げ、懐からペンを取り出した。ここで事務作業でもするつもりなのだろうか。
ペルセは軽く返事をしたあと、指定された席に腰掛けた。椅子の軋む音が、ペルセの耳に入った。
「ペルセちゃん!!私、ミノトっていうんだ!!隣の席なんてすごい偶然だね!!これからよろしく!!」
「あ、う、うん。ペルセです。ミノトさん、よろしく」
隣の席に座ったミノトが、カバンを下ろしながら声をかけてくる。
先ほどラウラから注意されたので、ミノトの勢いは多少落ちている。だがそれでも、然程衰えてる様子はなかった。
「さん付けなんてしなくていいよ!ミノトって呼んでくれていいし!!何ならタメ口でいいよ!!」
「えぇ〜…?」
今まで、ペルセのことを呼び捨てにしてくる者は何人かいた。だがその全てが年上の悪魔だった。
だが、ミノトは見てくれだけなら自分と同等の年代であろう。そんなミノトが、呼び捨てでいいと言ってきている事実に、ペルセは戸惑いを隠せなかった。
だが、相手はペルセの様子をものともせず、言葉を続けた。
「それでそれで!!ペルセちゃんは、どこから来たの!?種族は!?」
「え…っと…魔界から来た、悪魔だよ?」
「悪魔!?…その角って、悪魔の角なんだ…!」
ミノトはそう言うと、ペルセの頭に生えた小さな角に視線を向ける。
思えば、この角に着目する者など、魔界にはいなかった。だが、人間界では珍しいのかもしれない。
「ってことは、ヴァーレア先生とは知り合いなの!?」
「ミノト?悪魔だからといって、皆知り合いとは限らないからね?」
ミノトが鼻息荒く尋ねてきたが、窓に姿を現したヴァーレアが文句を言ってきた。ミノトは不満げに口をとがらせている。それが非常に、分かりやすい。
「ヴァーレア、余計なことを言わないように」
「えぇ!?」
「黙っててください」
「そんなぁ!!」
ラウラの一言で、ヴァーレアはあっという間に窓から姿を消した。昨日見た時も思ったが、やはり契約上ラウラのほうが立場が高いのだろう。
だが、ミノトはそこにも特に触れることなく、ペルセの方へと視線を向けてきた。
「ねね、やっぱり悪魔だから、強い魔力をドーン!!とかできたりするの!?」
「え、ど、どうなんだろう…?」
「実技の時に見せて!!」
強い魔力。改めて言われると、自分の魔力が強いのかなんてことは考えたことがない。
ペルセ自身、自分の魔力は特殊ではあるとは思う。だからこそ、わざわざアモディエナ達に鍛えてもらっていたわけだし。だが、強いのかと問われると、正直分からなかった。
その後もしばらくミノトとやりとりをしていた。気付くと、他の子供達が教室へと入り始めている。
時間を見てみたところ、すでに残り数分を切っているところだった。
「やばっ…!!そろそろ朝の会の時間だよ!!」
「朝の会…?」
「またあとで話そ!ね!!」
最後の最後まで、ペルセはミノトのテンションについていくことはできなかった。だが、間違いなく距離を詰めることはできたと思う。
ーーーとはいえ、朝から早々に疲れたのは事実だった。
少し疲労感を感じながらも、教壇で動き出したラウラの方へ視線を向けた。




