エストラ講師の決意
「…であれば…ペルセさんはどうやって、ダスノムから出てこれたんでしょうか…?」
話を聞く限り、ダスノムは底辺層の集まり。訪れた当初乳飲み子だったペルセが這い上がるのは相当に難しいはずだ。
それこそ、人生を変えるような出会いや出来事でも起きない限り、不可能に近いのではないのか。
それを聞いたヴァーレアは、再び困ったように笑った。
「う〜ん…そこはボクも詳しくは分かんないんだ…。姉様なら知ってると思うけど…」
「いえ、知らないなら良いです。少し気になっただけです」
これについては、今ここで絶対に知りたい、という話ではない。ヴァーレアが知らないなら知らないで構わなかった。
ただ、ヴァーレアはさらに言葉を紡いだ。
「姉様から聞いた話だと、アスティアノで見つかったらしいんだ。どうやって見つかったのかとか、どうしてそこにいたのかとかは分かんないけど」
「…十分ですよ」
本当に、十分だった。
ペルセがダスノムから出てこれた過程は、気にはなるが、それでどうこうするつもりはない。
「…今、ペルセさんは親御さんのもとで穏やかに過ごせてるなら、それで良いんです。結果オーライですよ」
「わお、珍しい。ランちゃんがそんな事言うなんて」
「結果論は好きではありませんが…こればかりは、結果論ですよ」
ラウラは精神世界から脱するため、瞼を閉じながら、呟くように言ったつもりだった。だが、ヴァーレアには筒抜けになっていたようで、茶化すような声が返ってきた。
しかし、その刹那、ヴァーレアの雰囲気が変わったのを感じた。
「…けどまぁ、確かにそうだね。過去は変わんないけど、あの子はあの子だもん。今幸せにしてるんなら、それでいいもんね」
ヴァーレアが珍しく真面目なことを言っている。だが、コイツはこれで終わるはずがない。この後に残念なことを言って、ラウラをがっかりさせるまでがテンプレだ。
「だからさ、ランちゃん」
来た。
一体、何を言うのか。ほんの少しの警戒心をもって、耳を傾けた。
「ボクら二人で、あの子の世界を広げよう。昔はダスノムしか見えなかったあの子に、広い世界を見せよう」
だが、予想に反し、ヴァーレアは真面目さを貫いていた。警戒していたラウラの感情が、大きく乱された気がした。
しかしながら、珍しく真面目なヴァーレアに、ノらない手はなかった。
「…えぇ。過去がどうあれ、今は私の、エストラの生徒です。他の生徒と同等に扱い、ホストファミリーとしても保護していくつもりですよ」
「さっすが〜!それでこそランちゃんだよ!!」
閉じた瞼の向こう側で、嬉しそうにしてるヴァーレアの様子が手に取るように分かる。
そう言っていると、ラウラの体が上へと引き上げられる感覚があった。精神世界からの脱却準備が整ったようだ。
もう間もなく、現実世界へと帰れる。
その前に、直接言いたいことを言っておくとしよう。
「…とりあえず、明日は雪が降りますね」
「ちょっとー!?聞き捨てならないんだけどー!?」
ヴァーレアの叫びを聞きながら、ラウラの意識は現実へと戻った。




