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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第二部 第三章 人間界来訪

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ペルセがダスノムに堕ちた理由(ワケ)

「…やっぱり、そこだよねぇ…」


 ヴァーレアは気まずそうにしながら、自身の頭を掻いている。どうやら、そこが最も話したくないところのようだ。


 ダスノムという場所の実態は何となく分かった。魔界にも、人間界で言うスラムのような場所があるということには、確かに驚いた。


 だが、それだけでは、あの時のヴァーレアの狼狽っぷりに納得はできない。普段から感情のままに振る舞うヴァーレアが、言葉を発せなくなるほどに驚き、ショックを受けていたのだ。


「…これは、後から判明した事実と、周りからの伝聞もふんだんに混ざってるんだけどさ…」


 ヴァーレアは口をモゴモゴさせている。

 普段なら「早く言いなさい」と叱り飛ばすところだが、なぜだが今回はそれがやりにくい。


 ラウラは顔をしかめたまま、ヴァーレアを見つめるだけだった。


「まだ生まれたばかりの、乳飲み子だったペルセ様を、デメナ様…ペルセ様のお母さんの、当時の部下が、ペルセ様をダスノムに遺棄したんだ」

「…はい?」


 今、何と言った。

 スラムであるダスノムに、乳飲み子を捨てた、と言ったのか。

 しかも、捨てた犯人は、母親の部下だと。


 人としても、教育者としても、それが本当なら聞き捨てならない事実だ。人間界でも、大問題になる。


「…デメナさんは…お母さんは、何もしなかったので?」

「もちろん、魔界の方でも大騒ぎになって、大規模な捜索がなされたよ。でも、ダスノムまでは捜査の手が及ばなかった」

「なぜです?」

「乳飲み子だからね。そんな遠くに行けるわけがない、と思ったんじゃないかな?」


 なるほど。

 確かに、行方知れずの子供を探すなら、近場を徹底的に探すというのは合理的だし、現実的だ。

 それで手を尽くしているのなら、親の判断を責めることはできない。


「ではなぜ、ダスノムにいると分かったのに、助けに行かなかったんで?」

「…ランちゃん。悪魔といえども、乳飲み子が一人で放置されて、長く生きることはできないんだよ」

「どういう、ことです?」


 ラウラが聞いても、ヴァーレアは口ごもるだけだった。ここまででもかなり酷い話だったが、まだ上があるとでも言うのか。


 ラウラは無言で、ヴァーレアを見つめる。ヴァーレアは唸りながらも、頭を掻きむしり、躊躇いがちに口を開いた。


「…話す、って言っちゃったもんなぁ…」

「ここまできて、約束を反故にすることは許可しませんよ」

「分かってる。…分かってるけどさぁ…」


 ヴァーレアの声が、段々悲痛なものへと変わっていく。かなり、辛い話になるのだろう。

 だがそれでも、聞かないという選択を取る気はなかった。


 しばらく無言で見つめていると、ヴァーレアがようやく口を開いた。


「…その犯人はさ…二週間、敢えて報告せずに待ってたんだって。確実にペルセ様が見つからずに息絶えるように」

「は?」

「確実に消したかったんだと思うよ、犯人は。ペルセ様を能無し扱いしてたんだって。能無しは、全てを不幸にすると本気で考えてたらしいから」


 絶句。

 あの時のヴァーレアと同じで、ラウラも口を半開きにして、絶句してしまった。


 そんなラウラを見て、ヴァーレアも物悲しそうな表情を浮かべている。


 二週間もたってしまうと、大人でも絶望的だ。ましてや対象が乳飲み子で、しかも環境もスラムであれば悪いであろう。


「…人間でも、行方不明になって二週間も経ってしまうと、捜索を続けるというより、遺体を探すことになりますからね…」

「だよねぇ…。ダスノムはゴミの最終処分場だというのもあって、死体すらも残ってないであろう、って理由で、捜索は打ち切られちゃったんだよ」


 ヴァーレアは再び言いにくそうに、追加の情報を持ってきた。理由には納得できるが、何とも居た堪れない。

 今、結果として生きているから良かったものの、当時の両親は気が気でなかっただろう。


 そんなことを考えてると、ヴァーレアは無理やり作ったような笑顔を向けてきた。


「…ね?だから言ったんだよ。ランちゃんにとってはキツい、って」

「確かに…これは、キツい話ですね」


 陰惨過ぎる。乳飲み子を遺棄した、というだけであれば、後味は悪いがまだ事件として起き得る話だ。

 だが、その理由と中身がひど過ぎる。


 しかしながら、聞かなければよかった、という気持ちは全く湧いてこなかった。


「…話しにくかったでしょうに、ありがとうございます」

「こんな重い話をすることになるなんて、思わなかったよ…」


 むしろ、ヴァーレアには感謝すらあった。話しにくいことを話させたのは、自分の方なのだから。

 ヴァーレアも気まずそうに、ラウラから視線をそらしていた。


 ーーーふと、別の疑問も湧いてきた。ラウラは、ゆっくりと口を開いた。

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