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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第二部 第三章 人間界来訪

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ラウラの理詰め

「…さて…」


 リビングに戻ってきたラウラは、冷蔵庫から缶コーヒーを持ってきた。


 缶を開けると、中の空気が吹き出す軽快な音がする。それと同時に、コーヒーの良い香りが鼻に入ってきた。


 ラウラはコーヒーを一口飲み、そっと瞼を閉じた。


 意識を、自身の精神世界へと持っていく。


 ここは、自分だけの世界。自分のみがアクセスできる、夢の中に近い場所。通常なら、自分しかいない。

 しかし、ラウラの場合は違う。そこに、慣れ親しんだ、赤紫の髪で、黒いレオタードを着た悪魔ーーーヴァーレアの姿があった。


「…説明、してくださいますよね?ヴァーレア」


 ラウラは淡々と問いかけた。

 その問いに、ヴァーレアがドキッとしたように肩を跳ねさせ、ゆっくりと振り向いてきた。その表情は、明らかに引きつっていた。


「…やっぱり、説明しなきゃダメかな?」

「当たり前です。後で説明する、と言ったのはそっちですよ」


 ラウラの言葉に、ヴァーレアは困ったように眉を下げている。だが、そう言ったのは他でもない、ヴァーレア自身なのだ。ちゃんと、約束を果たしてもらうのみだ。


「あなたのあの反応は、明らかにただ事ではありません。ダスノム、という地名にかなり引っかかってたようですが…。ペルセさんの過去に、何か関係が?」

「…分かったよぅ…話すよぅ。話すけどさ…」


 ヴァーレアはそう言うと、顔を伏せる。

 言いにくいことなのかもしれないが、そんなことは予想の範囲内だ。だからこそ、わざわざ精神世界で話をしているのだから。


「…かなり、胸糞悪いよ。特に、教育者であるランちゃんには、キツい話になる」

「いいから話しなさい。あの子に関わることで、私達の間に認識の齟齬があるのはよろしくありません」


 口ごもるヴァーレアを、ラウラは一蹴した。さすがにそこまで言われて、ヴァーレアも観念したようだ。


「まず、魔界の地理というか、階層構造なんだけど…アスティアノってのが、魔界の都心部みたいなところ。かつてボクも住んでたところだよ」

「えぇ、それは知っています。ですが、ダスノムとは?」

「ダスノムは…言葉にするのも嫌なんだけど、底辺層の集まりだと見なされてるんだ」


 その言葉に、無意識に自身の表情が険しくなったのを感じる。


 ペルセは、そんなところで育ったというのか。以前聞いた話では、魔界の幹部の娘、という話だったのに。


「…底辺層の集まり、ですか」

「うん。元々はゴミの最終処分場だったんだけど、そこに落ちぶれた悪魔が住み着いてたらしくてね…。人間界風に言えば、スラム化した、ってところかな?」


 スラム化。

 そう言われて、ダスノムの立ち位置は何となく理解できた。


 確かに、人間界にも、似たような場所はある。それは否定できない事実だ。


「いつからかは分からないけど…そんな経緯があったから、ダスノムにいる=ゴミ、って価値観が、魔界内に広まってしまってる、って話を聞いたことはある」

「…確かに、人間にも出自や人種で見下す輩はいますが、それと似たような感じですか」

「そうそう。まさに、そんな感じ」


 ラウラの眉間に、ますますシワが寄っていく。


 出自による差別など、自分の哲学にも、エストラの価値観にも反する話だ。もしエストラ内でそんなことを言う学生がいたら、即刻呼び出してお説教するところだ。


 だが、聞けば聞くほど、分からない。


「…ならば、ペルセさんはどうして…そんなダスノムにいたのでしょうか?」


 この一点が、どうしても結びつかなかった。

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