ヴァーレアの質問
「とはいえ…何から聞こうかな…」
ヴァーレアは鏡越しに、ペルセを眺める。見れば見るほど、ペルセは本当に母親であるデメナに似ている。
そんなペルセに直接聞きたいことは、正直山ほどある。だが、多過ぎて質問の整理整頓が、うまくできていなかった。
「…一つ一つ、聞いていけばよいのではないですか?貴女が一番知りたいことから、であるとか」
隣にいるラウラが、呆れたように声をかけてくる。ヴァーレアはそんなことを言ってる、ムッとした表情で見つめる。
そんなことは、分かっている。だが、ここでそれを言って、ラウラと揉めるのも得策ではない。ヴァーレアは、目の前に意識を戻し、質問をすることにした。
「あー…とりあえず色々あるんですが…。ペルセ様って、今のお住まい…それこそ、クロニオス様やデメナ様と再会する前は、どこで暮らしてたんです…?」
「へ?」
ヴァーレアは可能な限り、言葉を選びながら質問をしたつもりだった。だが、それに対して、ペルセは呆然としている。
自分らしくない、回りくどい聞き方になってしまったことは否めない。ラウラも、いつもより若干ジト目でこちらを見てきてる気がした。
だが、ペルセはそんな様子を気にすることなく、普通に口を開いた。
「えーっと…お父さん達と会う前は、アスティアノで過ごしてました」
「アスティアノで…?生まれてから、ずっと?」
「十年程前からです」
「じゃあ、それより前は…」
ますます分からない。
乳飲み子に過ぎなかったペルセが行方知れずになった当時、魔界は大騒ぎだった。当然、アスティアノやベリアスにも捜索の手は伸びていた。
ところが、成果は出なかった。アスティアノにもベリアスにも、ペルセの痕跡はなかったのだ。
ーーー考えたくない。だが、ペルセは臆することなく、言葉を紡いだ。
「物心付いたときには、ダスノムにいました」
「ダスノム!?」
その返答に、思わず大きな声が出てしまう。だが、それは予想外の驚きではない。
ペルセが失踪してから約二週間程して、当時のデメナの部下が、ダスノムに子供を捨てたと言った、という話を耳にしたことがあった。
その理由も、「能無しはいるだけでデメナ様を不幸にされる」という、ふざけた理由だったと聞いている。
しかもその時の部下は、むしろ正しいことをしたかのように話していたらしい。二週間経ってようやく話したのも、「それだけ経ってるからもう死んでる」と思ったからだと聞いている。
その時は冗談だと思っていたのだがーーー。
しかし、目の前にいるペルセは、嘘をついているようには見えない。まさか、本当だったのか。
「…嘘、でしょ…!?」
もう、言葉が出ない。
だが同時に、ヴァーレアが知る当時の魔界上層部の怒り狂い方にも説明がついた。
特に、デメナの乱れ方が尋常ではなかったらしい。当時から弟子であったイアノを通して聞くだけでも、その怒りと哀しみがひしひしと伝わってきてしまうほどだった。
「…ヴァーレア?どうしました?」
あまりに長い時間、絶句してしまっていたからだろうか。心配そうに、ラウラが声をかけてくる。
ラウラは、魔界での騒ぎを知らない。ペルセの一言に込められた裏の意味を、理解できないのも無理はない。
「…教育者であるランちゃんは…聞かない方が良い案件だよ…」
「なぜですか」
「なぜって…」
「ダスノムだとかアスティアノだとか…私は魔界の地名のみしか、聞いていませんが」
何とか伏せたい。こんな胸糞悪い話、ラウラには聞かせたくはない。
だが、そんな心配も、ラウラには無関係なようだ。
「…あとで説明するから…」
「そうですか」
とりあえず、今この場で説明できる内容ではない。ラウラには何とか引き下がってもらうことにした。
「…もう、最初の質問で、聞きたいことが全部吹っ飛んじゃったよ…」
ヴァーレアはその場で、頭を抱えた。
それを聞いたラウラは、小さくため息をついた。
「では、戻りますよ」
「わわ、待ってー!!」
背後で不思議そうにしているペルセを尻目に、ラウラは扉を開けたままで部屋を出ていった。
ヴァーレアは慌てて、鏡の中から姿を消し、ラウラの中へと戻っていった。




