ヴァーレア出現
「鏡…?」
ラウラに言われるがまま、部屋の壁にかけてある鏡の方へと視線を向ける。そんなものを見たところで、自身の顔が写るはずだ。
だが、その予想は大きく裏切られることになる。
「…えっ…?」
鏡の中には、ペルセの知らない、赤紫色の髪と牛のような角が特徴的な、元気そうな悪魔の姿が写っていた。
ーーーあれは、誰だ。少なくとも、自分ではない。
戸惑うペルセをよそに、鏡の中に写る悪魔が口を開いた。
「ビックリしましたよね〜。でも、ボクらの関係を見せておかないと、後から説明されると余計にキツいかと思いまして〜」
「叫ぶ必要ありましたかね…ヴァーレア」
ラウラは、鏡に写る悪魔を、ヴァーレアと呼んでいる。魔力の気配や声色からしても、学長室で出てきたヴァーレアと、同一人物で間違いはなさそうだ。
「関係、って…?」
「ボクはランちゃんの中にいるから、基本表には出てこないんです。出てくるとしたら、学長室でやった時みたいにランちゃんの肉体通じてか、今やってるみたいに鏡とか窓に反射した姿として出てくるか、ですね」
「何で、そんなことに?」
訳がわからないまま、ペルセはヴァーレアに尋ねる。鏡の中にいるヴァーレアは、顎に手を当てて、考える素振りを見せた。
そんなにややこしい話なのか。ペルセは少し身構えた。
「全部説明すると長いんですけど、まぁ契約の都合です。形式上、ランちゃんの精神の中で過ごすって契約なんで」
「…精神の中…」
「まぁ、ボクはこうやって、鏡とかを介して表に出てくる、ってことだけ分かっててくれればいいです」
ヴァーレアはそれだけ言って、話を切り上げた。
ペルセとしても、詳しく話されても理解できない気しかしなかったので、この対応は素直にありがたかった。
「それで?わざわざ出てきて、何の用です?」
「ランちゃんは分かってるよね!?ボク、ペルセ様にめちゃめちゃ聞きたいことがあるんだよ!?」
ヴァーレアは冷静なラウラと真逆で、何だかかなり興奮してる様子だ。
聞きたいこと、と言われても、自分なんかが答えられる内容なのだろうか。
ペルセが少し不安に思っていると、ヴァーレアはさらに言葉を続けた。
「姉様から話は聞いたけど、実際に会ってみて、ボクかなり驚いたよ!お母様、デメナ様が小さくなったのかと思うくらい似てるんだもん!!」
自分が母親に似ている。十年の間で、何回か言われてきたことだ。何なら、母親と初めて会った時に、自分の顔と同じだと思ってしまったほどだった。
それにしても、ヴァーレアはデメナを知っているのか。母親は魔界の中でも幹部という高い地位に就いているらしいので、それで知られてるのだろうか。
「…質問をするのは構いませんが、彼女も疲れてるでしょうし、程々にしなさい」
「そのつもりだけど…止められるかな…」
「長いと判断したら、強制中断させて、私の中に戻します」
「厳しい!!」
ヴァーレアは抗議の声をあげる。
契約を結んでる、とは言っているが、この感じだと完全にラウラが上位の契約なのだろうか。
ラウラは壁に寄りかかり、ヴァーレアの方を見る。どうやら、立ち会うことにしたようだ。
ペルセはひとまず、椅子に腰かけた。ずっと立ったままで質問に答えられるほど、体力は残っていない。
ヴァーレアが唸っている。そんなにたくさん、質問があるのか。しばらく唸り、ヴァーレアはゆっくりと口を開いた。




