家への招待
「ほぇー…」
ペルセの眼前に広がっていたのは、小綺麗な平屋だった。多少の経年劣化を感じさせる部分こそあるが、余程の綺麗好きでもなければ気になるものではない。
「…貴女が来ることが決まってから、魔界の方々が掃除してくださったんですよ。近々、礼を言わなければなりませんね」
ーーーなるほど。
確かにペルセも、誰かが家に来るとなったら、事前に掃除はするだろう。
ラウラは家の扉を開ける。木の軋む音が、喧騒に紛れて何だかいやに大きく聞こえてくる。
「どうぞ」
ラウラはそれだけ言うと、家の中へと姿を消す。ペルセもその後を追い、家の中へと入った。
外からも想像はついていたが、中にも特筆すべき場所はない。見てくれだけであれば、普通の家という印象だ。
ーーーだが、違う。外とは明らかに、空気が違う。
魔力濃度が、高い。アスティアノと同等くらいに、濃密な魔力が、家の中に漂っている。
「…魔力が…」
「悪魔なら魔力耐性があると聞いています。気分は大丈夫ですか?」
「全然、平気ですけど…」
ラウラが心配そうに尋ねてくる。しかし、ペルセは平然としていた。
むしろ今までハイーラ達と暮らしてきた魔界に近い環境であり、外にいるよりも落ち着ける環境であった。
「…それなら問題ありません。耐性がない普通の人間だと、気分を悪くするので」
「そうなんですか?」
「そうらしいです」
ラウラは廊下を歩きながら、そう教えてくれた。
ラウラの言ってることが本当なら、人間が魔界、特に上位の町であるアスティアノに来ることはできないのか。そう思うと、少し物悲しくなる。
「ここです。滞在中は、この部屋を使ってください」
玄関から比較的すぐの場所の部屋に案内された。
ラウラが扉を開けると、そこには殺風景な部屋が広がっている。
寝具とデスクのみ。それ以外には、特に何も置かれていない。本当に、最低限の設備だけしか置かれていない部屋だ。
とはいえ、考えてみると、魔界で暮らしてる時の自分の部屋と、あまり変わらない。普段も玩具などはリビングに置いており、自分の部屋へ持っていくことはなかった。
「トイレは部屋から出て、リビングと逆方向に歩くと、左手側にあります。浴室は、その隣の扉です」
ラウラはそう言いながら、最低ラインの設備案内をしてくれている。真っ直ぐなルートで行けるようで、迷う要素は皆無だ。
そこは素直にありがたい。
「…この近辺の案内を…とも思いましたが、それはまた機会で良いでしょう。お疲れでしょうし、しばらく休んでてください。その間に、私の方で諸々の手続きをしておきます」
「え…あ、はい」
これからまた色々あると思っていたのに、そんなことを言われてしまった。
何だか、拍子抜けだ。
ポカンとしていると、ラウラは背を向けてきた。そのまま、部屋から出るつもりらしい。
「何かあったら、私に声をかけてください。家にいる場合、基本的に居間にいますので…」
「ラーンーちゃーんー!!」
ラウラはそれだけ言うと、部屋の扉を閉めることなく、部屋から離れようとした。
しかし、どこからともなく聞こえてくる叫び声で、ラウラは足を止めた。
この声は、ヴァーレアの声だ。だが、ラウラを見ても、学長室で見た時のような髪色の変化はない。
ならば、ヴァーレアの声はどこから聞こえてきてるのか。この空間には、ラウラと自分以外にいない。ペルセは辺りを見回すが、当然誰もいない。
「えっ!?ど、どこから!?」
分からない。声は感じるし、魔力の気配も確かにある。だが、姿が見えない。
ーーー意味が分からなかった。
すると、ラウラが大きくため息をついた。
「…そこの鏡を、見てみてください」
ラウラは部屋の壁にかけられてる、少し古めの鏡を指差している。ペルセはそちらへと視線を向けた。




