ラウラとのお話
エストラを出て、しばらく歩く。
エストラの近場にある市場は、アスティアノとは違った方向で、かなり賑わっている。露店や大きな店が、大きな通りに所狭しに連なっている。
だが、そこにある商品からは、魔力をほとんど感じない。そこが、アスティアノとは大きく異なっていた。
「ラウラ先生。ここは一体…?」
「ここは…学生街、ってやつです。エストラの近くにある市場ですから、子供達が好むような商品や施設が多く存在しています」
ペルセの質問に、ラウラは淡々と応える。確かに、子供の自分から見たら、美味しそうなお菓子や、楽しそうな娯楽施設も時々見かける。
だが、ラウラはそこに全く目もくれず、静かに歩き続けていた。
「ラウラ先生は、ここで遊んだりとかしないのですか?」
「私一人ではあまり。ただ、エルフィー先生とかに付き合わされることはあります」
ーーー意外だ。
淡々としてるラウラも、一人でなければちゃんと誘いに乗るのか。
エルフィーは確かに、少し会っただけで楽しいことが好きそうな性格が伝わってきたため、容易に想像ができた。
ペルセはさらに質問をしていった。
「エルフィー先生って、あの職員室の前にいた人、ですよね?人間には見えなかったんですけど…」
実際、エルフィーからは魔力を感じ取れた。だがそれは、今まで馴染みのある悪魔のものとも、ラウラのようなものともかなり違う。完全に、別の魔力だった。
「エルフィー先生はエルフですよ」
「えるふ…?」
「主に森の中で暮らす、長命種です。長い耳なんかが特徴ですね」
エルフ。
初耳の種族だ。だが、長い耳が特徴なのであれば、エルフィーも例外ではないようだ。
だが、エルフィーについて気になることもあった。
「そう言えばエルフィー先生って、大人…なんですよね?」
「…身長に関しては、あの方の前では禁句ですよ。あの感じですが、かなり気にされてますから」
軽く聞いただけのつもりだったが、ラウラは立ち止まり、強めにペルセの肩を掴んでまでそう言ってきた。
そこまでまずいことなのか。あのエルフィーが、そんなに怒るのか。
「そこまで…?」
「私も新任の頃に、マジギレされましたから」
ラウラはそこまで言うと、少し気まずそうに視線をそらした。よくは分からないが、何かあったのだろうか。
「…とはいえ、そこさえ踏み抜かなければ、いい方ですよ。エストラでは薬学系の講義を担当されてますから」
「薬学系…?」
「平たく言えば、薬関係です。ああ見えて、薬剤調合においてエルフィー先生の右に出る者はいません」
ラウラはそう言いながら、再び歩き始めた。
薬学。そういえば、デメナも薬については話題に上げることが多かった。
傷薬だとか、感覚を鋭敏にする薬だとか。特に傷薬については、鍛錬で怪我したペルセに、母がよく使ってくれていた。
エルフィーはああいう薬を作ったりできるのか。小柄な見た目だが、高い知能を持っているのか。
ーーー見た目では分からないものだ。
ペルセは思わず感心してしまった。それと同時に、別の疑問もわいてきた。
「ラウラ先生は何を担当されてるんですか?」
「私ですか?私は、魔力運用に関する技術全般の講義を担当しています」
「…というと…?」
「どうすれば効率よく魔力を使えるか、より魔力を引き出せるか。あとは、新たな魔力の使い方を開拓する際に、どのような術式を組めばよいのか。…まぁ、本当に運用関係全般ですね」
説明されて、ようやくピンときた。
ラウラは、アモディエナと同じことを教える側だ。
アモディエナも鍛錬の際に、制御の仕方や魔力の扱い方を、ペルセに徹底的に教えてきた。今でこそ必要だと理解しているし、その教えを守れているが、始めたばかりの頃は若干もどかしさを感じていた。
ラウラはそれを、エストラで教えてるということか。
「さ、着きましたよ」
ラウラのその声で、ペルセは歩みを止めた。




