留学の始まり
ペルセはアモディエナが閉めてしまった扉を、しばらく見つめていた。扉の向こうには、もうアモディエナの気配も感じられない。
話が終わったら、足早に帰ってしまったようだ。合理的な性格のアモディエナらしく、退くのも早い。
「…さて、と」
学長の一声が、ペルセの意識を目の前の二人に戻した。しかし、その声に威圧感はない。
学長は隣に座るラウラの方へと視線を向けた。
「ラウラ先生。この子を連れて、ご帰宅いただけますか?」
「へ?…し、しかし、私の仕事は…」
「講師としての急ぎの仕事がないのは分かっています。何でも先んじてこなしてくれるのは君のいいところですが、今回は最優先事項があるでしょう?」
ラウラは学長にそう言われ、言葉を返すことができないようで、黙り込んだ。
ーーーこの人、サトゥニアのような厳かさこそないが、誰かを引っ張るという点で共通している。
ペルセは学長を見て、素直にそう思った。
「…承知しました」
「今日はそのまま退勤で構いません。その子に案内すべきことが、山のようにあるはずですから」
「それも…そうですね」
学長は制服と学生証を紙袋の中に戻している。ラウラはそれを見つめたまま、ほとんど動いていない。
ペルセはラウラをじっと見る。
今日からしばらく、この人のもとで暮らすのか。
ヴァーレアとは仲良くできそうだ。だが、ラウラとはこれから関係を築かなければならない。ペルセは心の中で、決意を新たにした。
「それでは、これをどうぞ」
「ありがとうございます」
学長は紙袋をペルセに手渡してきた。ペルセはぎこちなくなりながらもそれを受け取り、素直に礼を言った。
ーーー何だか、重みを感じる。学生証と制服一式しか入ってないのに、紙袋はスーツケースよりも重く感じた。
「では、行きましょうか」
そう言うと、ラウラはゆっくりと立ち上がり、ペルセの方へと近寄ってきた。ペルセもそれに釣られるように立ち上がった。
「学長、失礼しました」
「うむ」
ラウラのお辞儀に、学長は短く応えた。
学長はゆっくりと、ペルセの方へと視線を向けた。
「…ペルセさん。これから三週間、楽しんでいってくださいね」
「はい!よろしくお願いします!!」
学長に言われ、ペルセは元気よく返事をした。その様子を見て、ラウラは穏やかな表情を浮かべた。
ラウラは扉を開き、そのまま学長室の外へと出ていった。ペルセもその後を追い、外へと出た。
ーーーいよいよ、始まる。
その事実が、ペルセの胸を躍らせた。




