歓迎の挨拶
ラウラの後を追って、中に入る。
学長室には、様々な資料や書類の入った棚や作業机、応接用のソファ等が配置されていた。
奥の方で、グレーのスーツを着た白髪の老齢男性が座っており、こちらを見つめてきていた。
「魔界から遠路はるばる、よくおいでなさいました」
「あっ、えっ、こ、こんにちは!」
学長はそのままゆっくり立ち上がると、ペルセ達を見て軽く頭を下げてきた。
ペルセも慌てて、学長に頭を下げた。その様子を見て、学長は穏やかに微笑んでいた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「いえいえ。どうぞ、おかけになってください」
アモディエナの挨拶に対しても動じず、学長は眼前にあるソファへ座るよう、誘導してきた。
アモディエナとペルセは、そのソファへと腰掛ける。
使い込まれてるようで、少し硬い。だが、心地よく座れる、良いソファだ。
二人の向かい側に、学長とラウラが座り、向かい合った。何だか、背筋が伸びてしまう。
「改めまして、ようこそ我がエストラへ。私が、このエストラの学長でございます」
そう言うと、学長は再び軽く頭を下げる。隣で、ラウラがその様子を無言で見ていた。
アモディエナはそれを見て、ゆっくりと口を開いた。
「こちらこそ、このような機会を頂きまして、ありがとうございます。今回、人間界との交流の機会を持てたことは、魔界代表としても非常に有意義であると感じています」
「えぇ。今回はお試しということで、お一人のみとさせていただきましたが、今後もよければ交流を、と思っております」
アモディエナと学長が何か話しているが、ペルセにはよく分からない。どこに視線を向ければよいか分からず、学長の背後にある校舎の写真を眺めていた。
「さて…それはそうと、まず留学に際しまして、お渡しするものがございます。ラウラ先生」
「はい」
学長が隣に座るラウラに声をかけると、ラウラは転移魔術を使い、大きな紙袋を机の上に出現させた。
ーーー悪魔の使う転移技とは、少し違う。何と言うか、魔力を可能な限り無駄遣いしない方向に振り切った扱い方に見える。
「…これは?」
「留学期間中に使用する学生証と、貸与させていただく制服一式が入っております」
アモディエナの質問に答えながら、学長は紙袋の中から制服を取り出した。
パンフレットの中で自分と同じくらいの背丈の女子達が着ていた、白色のセーラー服だ。そこに、紺色のスカートもついている。
ーーーこれを着て、これから三週間の学校生活を送ることになるのか。何だか、ワクワクしてきた。
「生憎ですが、採寸はできていないので、人間でいうところの十歳児の標準的な体格に合わせてあります。見たところ、そこまで大きく差があるわけではないようですから、多少サイズを調節すれば問題なく着用できるかと思います」
学長はそう言いながら、制服を机の上に置いた。
簡単な裁縫くらいなら、魔力を使えば自分でも可能だ。だが、人間界で使えるかは、分からなかった。
学長は続けて、紙袋から一枚のカードを取り出した。
「そして、こちらが学生証になります。事前に送っていただいた写真を元に、作成させていただきました」
そのカードには、ペルセの顔写真と名前、そして『エストラ学生証』という文字が大きく書かれていた。
確かに、準備の時にアモディエナに写真を撮ってもらった記憶はある。この学生証を作るための写真だったのか。
ペルセは恐る恐る、差し出された学生証を眺める。
間違いなく、そこにあるのは自分の顔写真だ。細かく見ていくと、下の方に「エストラの学生であることを証明する」とも書かれている。
ーーー本当に、人間界、エストラに来れたんだ。
急速にその実感がわいてきた。
「…ラウラ先生から、何か補足事項はありますか?」
学長は、隣に座って俯いているラウラへ話を振った。
ペルセ達も、ラウラへと視線を向けた。
ーーーだが、様子が少し変だ。美しい銀髪が、段々と淡い赤紫へと染まっていっていた。




