エストラ到着
どのくらい、時間が経っただろう。
眩しい光が、少しずつ落ち着いてきた。
それを感じ取り、ペルセは閉じていた瞼を、ゆっくりと開いた。
光の向こう側に見えるのは、先程までいた魔王城ではない。
赤いレンガで作られた、大きな門。魔王城のものより、少しばかり小さい門だ。
ーーーパンフレットで見た、エストラだ。
一目で、それが分かった。
本当に、来れた。ここが、人間界なのか。
ベリアスと同じくらいに、魔力が薄い。特に支障はないが、久し振りの感覚で、少し落ち着かない。
「時間通りのはずだが…案内役はどこに…」
「アモディエナさんですね?」
時計を確認しているアモディエナの前から、一人の女性が声をかけてきた。
赤い修道士衣装に身を包んだ、銀髪の女性だ。その目つきは、何だかマールのように気怠そうだ。
「そうですが…あなたは?」
「私、エストラ常勤講師で、ペルセさんのホストファミリーも兼任することになりました、ラウラと申します。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ラウラと名乗った女性は、アモディエナに頭を下げている。それに対し、アモディエナも同じくらい深く頭を下げていた。
ラウラは頭を上げると、ペルセの方に視線を向けてきた。初対面の相手に見られるのは、未だに少し、ドキッとさせられる。
「あなたが、ペルセさんですね?今日より三週間、一緒に過ごすラウラです。よろしくお願いします」
「あ、よ、よろしくお願いしますっ!!」
ラウラにそう言われ、ペルセは反射的に頭を下げた。
少し、声が裏返ってしまった。変になっていなかっただろうか。
だが、ラウラもアモディエナも、特に気にしている様子はなく、話を続けていた。
「私が学長室への案内も承っております。ご案内いたしますので、ついてきてください」
「助かります」
そう言うと、ラウラは慣れたような足取りで、校内へと入っていった。その後を、アモディエナとペルセは追いかけていった。
「そういえば、他の留学生はいらっしゃらないので?」
「魔界からの留学生については、こちらも勝手が分かっていないこともあり、個別にお話したいという学長の意向です。他の留学生への挨拶は、別途行っております」
「なるほど。こちらとしても、それはありがたいですね」
ラウラとアモディエナが何か話している。ペルセにはよく分からないが、難しい大人の世界というものなのだろうか。
しばらく歩くと、校舎の中へと入った。
靴を脱ごうとしたが、ラウラに止められた。どうやら、校舎内は土足でも良いらしい。
校舎内を見渡してみると、パンフレットに載っていた写真よりも少し汚れている部分もあったが、基本的に小綺麗にまとまってる印象を受ける。
ーーーちゃんと、掃除がされている。ズボラなマールの部屋とは大違いだ。
通り過ぎていく教室の中には、教壇に大人が立っていて、それに向き合うように、制服を着た数十人の子どもが座っている授業風景が見える。音がこもっていて何を話しているかは聞き取れないが、皆まじめに話を聞いているようだ。
向かい側にある窓の外を見ると、別の校舎が見える。あの校舎にも、同じように子供達がいるのだろうか。それとも、パンフレットに載っているような実技授業を行ったりしているのだろうか。
ーーー想像が、膨らんでいく。
ここは、どんなところなのだろうか。かなり、楽しみだった。
「お待たせしました。こちらが、学長室になります」
そんなペルセの思考は、ラウラのセリフで中断することになった。
視線を向けると、高級そうな木材でできた扉があった。いかにも、トップがいそうな雰囲気の場所だ。
「学長、失礼します。魔界からの客人…留学生を、連れてきました」
ラウラはそう言うと、学長室の扉をゆっくりと開けた。




