他者から見たペルセ
「どんな子、って…」
「私は人間ですから、そのペルセという子供が魔界でどのような立ち位置にいるかなど、知る由もないですからね」
ラウラは淡々と事実を述べた。それを言われ、ヴァーレアも言い返すことはできないようで、少し唸るだけだった。
少し考えた後、ヴァーレアは口を開いた。
「ボクが知ってるペルセ様は、生まれて然程経たない乳飲み子だった頃に消息不明になってしまった、魔界幹部夫妻のご息女だよ」
ヴァーレアの言葉に、ラウラの動きは止められた。
なんと言った?
魔界幹部夫妻の、娘。しかも、長年消息不明だった、と。
たったひと言なのに、あまりに情報量が多すぎる。
「…嘘ですよね?」
「ボクもそう思いたいよ!ペルセ様が生きてたって、どうして教えてくれなかったのさ、姉様!?」
ヴァーレアが嘘をつくとは思っていない。だが、ヴァーレアも完全に信じ切ってるわけでもなさそうだ。
ヴァーレアは不満全開で、イアノに食って掛かった。しかし、イアノはどこ吹く風だった。
「特に話題にしてこなかったので。聞かれてないのに、答える話ではないでしょう?」
「そうだけど…。そうだけどさぁ!!」
直接は見えないが、ヴァーレアが頭を振り乱してる姿が、容易に想像できるような声色だ。
ヴァーレアはその勢いのまま、さらに叫んだ。
「でも!!ペルセ様が行方不明になった時、滅茶苦茶騒ぎになったじゃん!!何なら、死亡説が信じられてたくらいに!!」
「えぇ。ですが、十年程前に見つかったのですわ。細かい経緯は話すと非常に長くなりますが」
「かなり気になるぅ…」
「ヴァーレア」
それを話されると、非常に困る。話が大きく脇道に逸れてしまう。だからこそ、ラウラは強いトーンでヴァーレアの名を呼んだ。
それを聞いたヴァーレアは、不満そうにはしていたが、大人しくなった。
「そう身構えなくとも、本人はとてもいい子ですわよ」
「その背後に魔界幹部のクロニオス様とデメナ様がいる子供の世話って…」
「私はしょっちゅう、デメナ様からの依頼でペルセちゃんの送迎をやったりしておりますが」
「姉様の場合、デメナ様とは長年の師弟関係だから慣れてるんじゃん!!」
クロニオスとデメナ。
ペルセの両親で、魔界幹部の名前なのだろう。そして、その片割れが、イアノの師匠。
ーーー頭がこんがらがりそうだ。
「…でも、生きてたんだね…ペルセ様」
「そうですわね。ペルセちゃんが見つかった時、魔界上層部もそれはそれは大騒ぎでしたわよ」
「だよねぇ…。死んでると思われてたんだし」
ヴァーレアが湿っぽい空気を出している。イアノはそれにノることなく、変わらない調子で言葉を紡いでいた。
確かに、長年行方知れずだった者が見つかった、さらには生きていた、ともなれば、騒ぎになるのは必然であろう。魔界でもそこは同じのようだ。
「ペルセちゃんのホストファミリー役、あなたがたが相手なら私も安心ですわ。託しますわよ」
「やめてよ!すごいプレッシャーなんだけど!?」
「重ねて言いますが、本人はとても素直で良い子ですわ」
「だとしてもぉぉぉ!?」
ヴァーレアは再び叫び続けていた。頭の中で騒いでいるため、耳を塞いだところでうるさいままだ。
ラウラは小さくため息を吐いた。
「ラウラさん」
すると、イアノから呼びかけられた。
騒ぎ続けるヴァーレアを無視し、そちらへ意識を向ける。
「せっかくの機会ですので、ペルセちゃんに人間界のあれこれについて、教えてくださると助かりますわ」
「…元から、そのつもりです」
「ふふっ…さすが、エストラの先生ですわね」
「ホストファミリーの仕事ですから」
任された以上は、放り投げるつもりもない。
エストラの講師である以前に、ラウラ自身が持つポリシーでもある。
ラウラの返答に、イアノは静かに笑っていた。
「それなら、安心ですわ。では、失礼します」
「姉様!?姉様ぁぁぁ!!」
ヴァーレアの嘆きが聞こえる。しかし、そんな呼び止めも虚しく、イアノは通信を切った。
通話終了後も、ラウラの頭の中で、ヴァーレアの叫び声がしばらく響き続けていた。




