イアノとの三者通話
その日の夜。
ラウラは業務を終え、自身の家の中で魔導書を読んでいた。
家の中は、先日魔界から派遣されたという大掃除部隊が掃除してくれたおかげで、新築顔負けなほどにきれいにされていた。
未だに少し落ち着かない部分はあるが、暮らしやすくはなったし、周りから文句を言われることもなくなり、かなり気楽になった。
「…ランちゃん。そろそろ時間だよ。姉様に、魔力通話かけて。繋ぎ先は、前教えた通りのところだよ」
近くにある化粧台の鏡に姿を現したヴァーレアが、静かに語りかけてくる。
時計を見ると、確かに約束の時間が迫っている。今日、ヴァーレアが勝手に、イアノと約束を取り付けていたようなのだ。
ラウラはため息をつくと、イアノの魔力に自分の魔力を接続する。その際に、ヴァーレアにも会話内容が聞こえるよう、繋ぎ方を通常とは少し変えていた。
少し面倒だが、ヴァーレアも会話に参加させるためには、これをするしかない。
しばらくすると、ノイズ音と共に、相手の声が聞こえてくる。くぐもった音の中に、落ち着いた女性の声が交じっている。
調節を続けると、次第にノイズ音もなくなってきた。
「…もしもし、イアノさん。お久し振りです、ラウラです」
「お久し振りですわ。妹から話は聞いておりますの」
イアノの声が、直接頭に聞こえてくる。久しぶりに聞いても全く変わらない、透き通る清水のような美しい声である。ヴァーレアのやかましいだけの声とは、大違いだ。
「ランちゃん、何か失礼なこと考えてるでしょ!?」
「ヴァーレア、お静かになさい」
「…そうだった。姉様聞いてるんだもんね…」
文句を言ってきたヴァーレアを、イアノがたしなめる。そんなやりとりを聞いて、この二人が、本当に姉妹なのだと実感させられた。
「さて、わざわざ宿主であるラウラさんに通話をかけさせるとなると、ラウラさんにも共有したいことがあってのご連絡なのですよね?ヴァーレア」
「そうだよ、姉様!!察しが良くて助かる!!」
冷静なイアノとは対照的に、ヴァーレアはテンションが高いようだ。このテンションにはついていけないし、ついていく気もない。
ラウラは、傍観者として二人の会話を聞くことにした。
「魔界からの留学の件で聞きたいことがあるんだよ」
「留学…あぁ」
イアノは何か察したような反応だ。通話の向こう側なので、顔は見えないが、概ね分かってしまったようである。
ヴァーレアはそれを聞いていないのか、変わらないテンションで言葉を続けた。
「今回留学に来る予定の子供って、ボクが知ってる子だったりするの!?」
「えぇ、そうですわよ」
ヴァーレアの質問に、イアノは何の躊躇いもなく、あっさりと答えた。
やはり、ペルセという子供を知っていたのか。
しかしながら、なぜあそこまで狼狽えていたのか。それについては、分からないままだ。
「ヴァーレア。あなたの知るペルセという子供は、どのような子供なのですか?」
だからこそ、聞かないという選択肢はなかった。聞かなければ、ずっと蚊帳の外に置かれることになる。
ーーーなんだか、それは癪だった。




