エストラへの伝達
一週間後。
人間界、魔術学校エストラの職員室に、エストラの講師が集められていた。
エストラの常勤講師であるラウラとエルフィーも例外なく、自身のデスクに座っている。
「また新しい留学生の発表かな?今年はどんな子が来るっちゃろか〜」
ラウラの隣に座るエルフィーは、コーヒー片手にケタケタ笑っている。
留学生の受け入れ自体は、毎年のように行われる定例行事だ。だが今回の場合、ラウラにとって、決して聞き逃すことのできない案件だ。
「どんな子が来るのかな〜?楽しみー!」
窓に映るヴァーレアも、エルフィー同様にはしゃいでいる。何とも、無責任なものだ。
ラウラとて、楽しみでない、というわけではない。だが、今回はホストファミリーを受け持つ都合上、胃が痛いのも事実だった。
「皆さん、今年も留学生の季節がやって来ました」
そんなことを考えていると、前に立つ学長が口を開いた。まるで、「柿の季節が来た」とでも言ってるような、軽い口調だ。
その直後、講師のデスクへ、一枚の紙が魔術で転送されてきた。その紙には、『本年度の留学生一覧』、という表題がつけられていた。
ーーーいつもと変わらないレイアウトに、氏名と種族、そして大まかな特徴とホストファミリーの連絡先などが記されている。
「今年の留学生は、総勢三名。うち二名は人間。そして…」
学長はそこまで言うと、一度言葉を切った。
紙を見ると、学長の言葉通り、留学生はほとんど人間のようだ。だが、そこからさらに視線を動かしていくと、種族欄に『悪魔』という文字が書かれているのが見えた。
学長は一息つき、再び口を開いた。
「今回、数百年ぶりに魔界からの留学生を受け入れることとなりました。お手元の資料通り、ホストファミリーはラウラ先生にお願いしてあります」
学長のその言葉とともに、皆の視線が一斉にこちらに向く。普段あまり注目されない側であるため、何だか居心地が悪い。
すると、隣に座るエルフィーが声をかけてきた。
「この…ペルセって子が、留学に来る悪魔の子どもってことよね?」
「えぇ…そのようです」
「これ…人間の感覚やと、どんくらいの年齢いっとると?」
「大体ですが、10歳前後か、と」
書かれてる名前と、年齢を見ている。
年齢からすると、小学生の部のクラスに留学することになりそうだ。
「…ちょっとタンマ。ペルセ、って子供が来るの…?」
後ろから話を聞いていたヴァーレアは、震えている。普段快活なヴァーレアがこのような反応を見せるのは、かなり珍しい。
一体、どうしたのだろうか。
「…名前も年齢も、一致してる。でも、まさか…もしそうだとするなら…!!」
明らかに、動揺している。狼狽具合が、声色から手に取るように分かる。
余程、ペルセという悪魔が有名なのだろうか。ラウラには、全く分からなかった。
「詳細については、また追って連絡します。今年も、留学生にエストラでの学校生活を楽しんでいただきましょう」
学長は早々に話を切り上げ、次の議題へ移り始めた。ラウラもエルフィーも、資料を片付け、再び学長の方へと目を向けた。
「…ランちゃん」
ヴァーレアが小声でラウラに語りかけてきた。だが、会議中であるため、ラウラはそちらへ視線を向けなかった。
でも、それで十分だ。ヴァーレアは、ラウラの精神の中にいる。耳を傾けなくても、頭に直接聞こえてくるのだから。
「あとで、姉様に聞きたいことがある。ランちゃんにも共有したいから、家に帰った後に、ちょっと時間ちょうだい」
ヴァーレアはそれだけ、ラウラに伝えてきた。ラウラは何も言わず、小さく頷くだけに留めた。




