留学制度とは
一瞬、何を言われたか分からなかった。
ハイーラたちも、完全に固まっている。
しばし、気まずい沈黙が流れる。その沈黙を、ペルセ自身が打ち破った。
「…に、にんげん、かい?」
「あぁ。人間界だ」
聞き間違いではなかった。
聞き返しても、返ってくる答えは全く一緒だった。
人間界。
何日か前に、実の両親と食事していた時にも話に出てきた、異世界の名前だ。
アモディエナからも人間界の話をされたことはあった。だが、それを踏まえても、先ほどの問いは変だ。
「…き、興味があるか、っていうのは…?」
「実は、今人間界に留学したい悪魔、というのを探していてな」
「留学ぅ!?」
ペルセの問いに、アモディエナは間を置くことなく答えた。それに対し、ハイーラが大声をあげた。
留学という制度があること自体は、ペルセも知っている。だが、それは魔界内部での話だったはずだ。異世界である人間界への留学など、聞いたことがない。
「留学、って何をするんですか〜…?」
すると、隣に座っていたマールが、ぎこちなくおにぎりを頬張りながら尋ねた。そんなマールの目の前に、アモディエナは資料を一枚差し出した。
「今のところ正式をこれをやる、というのは決まっていないが…。今回の留学の目的は、人間界と魔界の交流だ。短期間ではあるが、向こうに行ってもらい、向こうの者達と仲良くしてくれればいい」
アモディエナが差し出してきたその紙を見ると、何だかカッチリした学校の写真が載っている。そしてその横に、エストラと記され、それに関する説明が長々と書かれていた。
資料によると、どうやらエストラは魔術学校であり、魔力の扱い方を学ぶ人間界の学校のようだ。
「エストラ…魔力の鍛錬…学校…」
ペルセは文字を追いながら、思わず呟いた。
この10年、ペルセは家族と平穏な時間を過ごしてきた。だが、その中で、学校というものに行ったことはなかった。
サトゥニアでの鍛錬などもあり、学校に行くために時間を割くことができなかったからだ。その代わりに、鍛錬の際にアモディエナやデメナから勉強を教えてもらう時間をとってもらっていたので、勉学に困ることはあまりなかったが。
「…学校って、どんなところだろう…」
だからこそ、ペルセがそう呟いてしまったのも、ペルセにとっては不思議ではなかった。本当に、イメージがつかなかった。
「ペルセちゃん、もしかして気になるの?」
「…うん、少し」
慌てたように、ハイーラが聞いてきた。だが、ペルセは嘘をつかなかった。気になっていることそのものは、間違いない。
「この情報は、留学資格がある者全員に触れ回っている。アスティアノに在住していて、一定の教育を受けた者全員にな」
「え?私、教育なんて…」
「俺やデメナが教育したのだぞ?お前の教養は俺が保証する」
アモディエナはそう言うと、パンフレットを目の前に置いた。その表紙に、先程の資料に載っていたエストラの校舎と、その下に笑顔で写っている複数の子供達の姿が載っていた。
そして、その表題の部分に、大きく流れるような綺麗な字で「魔力を通じて、世界を見る。魔術学校・エストラ」と書かれていた。
「留学予定の学校の情報だ。中を読んでみるといい。もし留学を考えてるから、後で案内する申込書を出してくれ。数が多ければ抽選になるが」
アモディエナが何か言っていたが、ペルセの耳には届かない。ペルセは、食い入るようにエストラのパンフレットの表紙を見つめていた。
「…分かりました。家でも検討します」
ハイーラが礼を言っている。その声で、ペルセはようやく我に返り、アモディエナの方へと視線を向けた。だが、アモディエナはもうすでに帰ろうとしているようだった。
「水入らずのところ、邪魔して悪かったな。話は終わったし、邪魔者は退散するとしよう」
アモディエナはそれだけ言うと、軽く会釈をした後、その場を離れた。




