非日常の来訪
さらに数日後、魔界にて。
サトゥニアの町の鍛錬場で、ペルセは今日も鍛錬を行っていた。
それだけなら、日常風景だ。だが、今回は少し違っている。
「スゴい…ここまでできるようになったのね…」
「ペルセ〜…本当に成長したよね〜」
アスティアノでの育ての親である、ハイーラとマールという二人の保護者に、鍛錬の成果を見てもらっていた。
ハイーラ達は、先程まで目の前で繰り広げられていた、ペルセの魔力を使った鍛錬風景を見て、驚きのあまり、呆然としている。
「私、頑張ったよ!!」
ハイーラ達にそう言ってもらえて、ペルセは嬉しくなり、胸を張っていた。
すると、ペルセの頭に、誰かの手が乗った感触があった。何度も味わってきた、心地良い撫で方。間違えようがない、マールの手だ。
「うんうん、頑張ったね〜」
「えへへ」
母から撫でられるのも嬉しいが、マールから撫でてもらえるのもまたとても嬉しい。その感覚は、何年経っても、何回やられても変わることはなかった。
そして、それを見たハイーラが不満そうに、少し口を尖らせてるのも、いつものことだ。
「…私と何が違うってのよ、ほんとにさ」
「私にも分かんな〜い。何なんだろうね〜…」
だが、そう言い合っている二人の顔は、笑っていた。つられて、ペルセも笑顔になった。
「じゃあとりあえず、ご飯にしましょうか」
「分かったー」
ハイーラはそう言うと、懐に持っていた弁当箱を取り出し、ペルセの前へ差し出した。
ペルセはそれを受け取ると、近くのベンチに腰掛け、弁当箱を開けた。中には、ハイーラお手製の美味しそうなご飯が詰められていた。
「いただきまーす」
ペルセは満面の笑みを浮かべながら、ハイーラの返事も待たずに、弁当のなかに入っているソーセージを箸で器用につまみ、口の中へ運んだ。
鍛錬で魔力を消費した体に、栄養が染み渡っていく気がした。
「…ホント、毎度毎度美味しそうに食べるわよね、この子」
「作り手としては嬉しいんじゃないの〜?」
「否定はしない。けどアンタからそれ言われるのは何かムカつく」
「なんで〜?」
ペルセの両隣で、おにぎりを食べながらハイーラとマールが話している。
毎回毎回、よく飽きもせずに軽口を叩き合えるものだ。ペルセが二人と同居を始めて10年経った今でも、ハイーラとマールの空気は全く変わっていない。
同年代で、こんな風に遠慮なく言い合える相手、というのがいないペルセにとっては、昔から少し、羨ましい関係でもあった。
すると、鍛錬室の扉がノックされる音が耳に入った。
一体、誰だろうか。ペルセはご飯を頬張りながら、扉の方へと視線を向けた。
「ペルセ。まだいるか?入るぞ」
外から聞こえてきたのは、アモディエナの声だった。その声に、隣に座っていたハイーラ達が背筋を伸ばした。
ーーーどうやら、頻繁には会わないこともあり、未だに慣れないらしい。
アモディエナは宣言通り、鍛錬室の中に入ってきた。相変わらずの、整えられた茶髪と眼鏡、そして堅苦しそうなスーツ姿だ。
「…おっと、家族水入らずの時間だったか。…いや、手間が省けて、むしろ都合が良い」
「え…?」
普通なら、家族の時間というのならばまたの機会に、となるところではないのか。だが、アモディエナは「手間が省ける」と言った。
一体、何の要件なのだろうか。ペルセが首を傾げていると、アモディエナは手元に資料を出現させ、口を開いた。
「…ペルセ。『人間界』に、興味はあるか?」




