幹部会議の決定事項
一瞬の静寂。
ヴァーレアの息遣いだけが、イアノの耳に入る。
ヴァーレア驚くのも無理はない。丁寧に、説明をしなければ。
「そもそも、今回のアナタの相談事は、世界を跨ぐお話ですから、私も自分だけでは判断できなかったのですわ」
「あぁ、うん。そこは分かる」
「なので、デメナ様にご相談させていただきました」
「そっちにいったの!?お父様とかじゃないんだ!?」
「魔界内部では済まないお話ですので」
イアノが淡々と話しているのとは対照的に、ヴァーレアはやかましいほどに大きな声を上げている。
だが、イアノは特に気にせずに、話を続けた。
「人間界に行った前例を調べていくと、何百年かの昔は、エストラ等での魔術学校への留学制度があったことが判明しているのですわ」
「…あー…確かに制度としては、まだ残存はしてるはず。もうほぼ使ってないから、形だけしかないけど」
「ですので、私の方から、エストラへの留学を、人間界交流の足掛かりにしてしまうことを提案いたしましたの」
「姉様何してくれちゃってんの!?」
さすがに黙ってられなくなったようで、ヴァーレアは文句を言ってきた。だが、ここで嘘を付いても仕方ないだろう。
イアノはさらに話を続けた。
「デメナ様も判断に困ったようで、幹部会議の議題にまでなりましたわ」
「幹部会議ぃ!?…うへぇ…私的なことなのに、話が大きくなってるぅ…」
ヴァーレアが再び弱音を吐いている。恐らく、画面の向こうでは天を仰いでいるのだろう。
「会議の結果ですが」
「もうお腹いっぱいなんだけど」
「デザートがまだ残ってますわ」
「うえぇ…」
ヴァーレアは話を切り上げたがってるようだが、まだ話は終わっていない。
デザート、とは言ったが、イアノにしてみればここからがメインディッシュだ。
「魔界からの留学をさせることで、魔界と人間界の交流を再開する足がかりにする、という方向で固まりましたわ」
「姉様の案が採用されちゃったの!?」
「魔界と人間界の交流を再開する上でのホストファミリーとして、ゴエティフス家の次女でもあるアナタを指名させていただくことになりましたわ」
「…こういう時にその肩書は強いけどぉ…」
予想通りの返しに、イアノは小さく笑う。
ゴエティフス家令嬢の肩書を、ヴァーレアはあまり誇示したがらないことを知った上で、敢えてこのような言い方をした。
案の定、ヴァーレアは少し不満げだった。
「これであれば、アナタの家の掃除をすることによって、魔界にも恩恵がもたらされますし…何より、わざわざ人間界に悪魔の掃除部隊を派遣する大義名分にもなりますでしょう?」
「…留学先のホストファミリーの家が汚いのは色々と問題だから…ってこと?」
「正解ですわ。理解が早くて助かります」
「嬉しくないぃ…」
話をする前と比べて、ヴァーレアの声はすっかり疲弊してしまっている。一気に情報を与えすぎただろうか。
だが、それでも話を中断する気はなかった。
「もちろん、どなたを派遣するか、等はこれからになりますが…。ヴァーレア、エストラの方に話を通してくださいますわね?」
「通してはみるし、制度はまだ残ってるからいけると思うけど…。ホストファミリーの件は、絶対ランちゃん文句言ってくるよぉ…」
「あなたもすでに、文句かなり言ってきた気がしますが」
「ボクのはノーカン!!」
最後のヴァーレアの軽口に、イアノは静かに笑った。
妹なら、何だかんだ言いつつ、ゴエティフス家の令嬢としてちゃんと仕事をしてくれると、疑う事なく信じていたが、それを改めて確信した。
「…じゃあ、頼みますわよ」
「うへぇ…まぁ、やっておく…」
それだけ言うと、ヴァーレアとの魔力通話を切った。
通話を終えたイアノは、静かにため息をついた。
「…さて、どう転びますかね」
そう言いながら、ゆっくりと立ち上がり、使用人が用意してくれてるであろう食事をとるため、部屋を出ていった。




