家事代行の条件
そこから、数日が経った。
執務を終えたイアノが、アスティアノにあるゴエティフス家の屋敷に戻ってきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
屋敷の中を駆け回る使用人たちが、次々に声をかけてくる。広い屋敷をいつも清潔に保ってくれている彼らには、頭が上がらない。
「すでにお食事の準備も、湯浴みの準備も整えてあります。どちらからなさいますか?」
「ありがとうございます。食事の準備だけしておいてくださいますか?個人的に連絡したい相手がいますので、そちらを優先しますわ」
「かしこまりました、お嬢様」
声をかけてきた執事は、深く頭を下げると、忙しなく台所へと向かった。
イアノはその背中を見送り、屋敷内にある自身の部屋へと向かった。いつも通りに階段を登り、扉を開けて部屋の中へと入る。
「ふぅ…」
自身の部屋の椅子へ、深く腰を掛けた。しかし、休んでいる場合ではない。あまり、使用人たちを待たせるわけにもいかないのだ。
イアノは、こめかみに指を当てて、自身の魔力を、特定の相手ーーー妹である、ヴァーレアのものと接続した。
しばらくすると、ノイズ音と共に、相手の声が聞こえてきた。
「…聞こえますか?…ヴァーレア」
「姉様ぁ〜…進展あったの…?」
通話越しに伝わるヴァーレアの声は、疲労に満ちているようだった。最初に相談を受けたときも参っているようだったが、あの時よりも疲弊している印象だ。
「…その様子ですと、そちらは相変わらずのようですわね」
「そうだよぅ…ボクが何言っても、ランちゃんは研究を優先しちゃうものだから、結局掃除が進まないんだ…」
通話の向こう側で、ヴァーレアがそう言いながら頭を抱えてる姿が容易に想像できる。
昔からそうだった。ヴァーレアは、思ったことが声色や動作に出てくるタイプだ。見てて面白くはあったが、同時に心配になるほどに、素直な性格なのだ。
思わず、小さく吹き出してしまう。それを、ヴァーレアは聞き逃さなかった。
「姉様!?笑い事じゃないんだよ!?ボク、本気で困ってるんだからね!?」
「ふふっ…あぁ、すみませんね…ふふっ」
昔は、こんな素直すぎるヴァーレアと何度も衝突したものだ。だが、大人になった今は、見てて飽きない妹として見れるようになった。
もっとも、今のヴァーレアにそれを伝える気もないし、伝えたところで怒らせてしまうだけであろう。
ひとしきり笑った後、イアノは本題に入ることにした。
「それで…その案件に関してですが、確かに進展はありました」
「おっ!?ホントに!?」
露骨に、ヴァーレアの声が明るくなる。その声が大きすぎて、音割れすら起きていた。
「結論から申し上げますと、条件付きではありますが、掃除部隊を派遣する許可は降りましたわ」
「…よかったぁ〜…」
イアノが淡々と報告すると、ヴァーレアは大きく安堵のため息を吐いた。
だが、この話はこれで終わりではない。イアノは、さらに言葉を続けた。
「条件としてですが…ラウラさんの勤めておられる魔術学校エストラ。そこにある魔界からの留学制度を用いて、悪魔を留学させたいので、ホストファミリーを買って出てほしい、とのことでしたわ」
「…ん?…ホストファミリー…?ボクの聞き間違いかな?」
通話の向こう側のヴァーレアの時間が、明らかに止まったのが感じ取れる。
だが、それでもイアノは言葉を止めなかった。
「えぇ、ホストファミリーですわ。ラウラさんがその役目を引き受けていただくことを、掃除部隊を派遣するための条件として提示させていただくことになりましたの」
「…えぇぇぇぇ!?何がどうなってそうなったの!?」
イアノの頭に、ヴァーレアの絶叫が響き渡った。




