上司としての気遣い
デメナ達がペルセと家族の時間を過ごした翌日。
サトゥニアの町にある、幹部悪魔の仕事場にて。
イアノがいつものように、アスティアノに住むペルセの第二の保護者、ハイーラとマールの元にペルセを送っていった。
「イアノさん」
イアノがアスティアノから戻り、自身の別の仕事に取りかかろうとしたところを、デメナは呼び止めた。イアノはその声に、ゆっくりと振り向いた。
「何でしょうか?」
「この前のお手紙の件、少しお話聞かせていただけますか?」
デメナがそう言うと、イアノはフリーズし、目を見開いた。
イアノのことだ。自分の身内に関わる私的なことだからと、自分の中での優先順位をかなり下げているのだろう。でなければ、わざわざ手紙などという回りくどいことはせずに、直接魔力通話でかけてくるはずだ。
デメナは、部下のことをよく知ってるつもりだった。
「…しかし、デメナ様にも優先すべき業務が…」
「少し、私の休憩に付き合ってくださいな。プライベートなことですし、お茶でも飲みながら、執務室で話しましょうか」
デメナはそのまま椅子から立ち上がり、自身の執務室へと向かった。そこならば、普段は自分と、その直属の部下であるイアノしか出入りしない。
イアノがプライベートで、あまり聞かれたくない話をするにはもってこいの場所だろう。
「…デメナ様…強引ですわ…」
背後でイアノが呆れたようにため息をついている。しかし、観念したようにデメナについてきた。
廊下をしばらく歩き、デメナの執務室の扉を開ける。
嫌というほどに見慣れてる、合理性を追求した自分専用の執務室だ。
後を追うように、イアノもその部屋に入ってきた。
「ゆっくり、お茶でも淹れましょうか」
「デ、デメナ様、それは私が…!」
「お気になさらず。今回、あなたを呼んだのは私ですから」
デメナはそう言うと、執務室内にある給湯室で、茶葉を取り出した。
急須に水と茶葉を入れ、自身の魔力を流し込み、一気に中を温める。普段ならイアノがやっているが、今回は自分が無理を言ったのだ。このくらいしなければ、筋が通せない。
しばらく魔力を流し続けてると、急須が適温になった。専用の容器を取り出し、急須からお茶を注いだ。
茶葉の良い匂いが漂い、デメナの鼻を刺激する。今日も、上手く作れたようだ。
「イアノさん、お待たせしました」
淹れたお茶を、執務室のデスクで待っていたイアノの前に差し出す。普段と立場が逆で、少し新鮮ではある。
「…わざわざすみません」
「ふふっ、その謙虚さはアナタのいいところですよ」
デメナはそう言うと、イアノの向かい側に座った。
お互いが、お茶を軽くすする。それだけの行動で、イアノも心なしか少し落ち着いてきたように感じる。
「…さて、妹さん…ヴァーレアさんのお話、少々お聞かせいただけますか?」
デメナは微笑みながら、目の前にいるイアノに穏やかに問いかけた。




