家族の時間
愛用してる黒のワンピースに着替え終わったペルセは、再び母と手を繋ぎ、家族の暮らす部屋へと向かう。
サトゥニアの町、魔王の住まう館の一角にある、広い部屋。それが、デメナ達家族の家だった。
「ただいまー!」
その部屋の扉を、元気よく開けた。扉が壁にぶつかる音が、どこか心地良い。
その音に気付いたのか、ソファに腰掛けていた父・クロニオスが、顔だけこちらに向けてきた。
「あぁ、お帰り」
「うふふ、戻りましたよ、クロニオスさん」
「見たら分かるわ」
父のぶっきらぼうな返事と、夫婦間の軽口の応酬。それも、いつものことだった。
デメナはクスクス笑いながら、ペルセからそっと手を離した。
「さ、ではご飯にしましょうか」
「うん!お腹すいたー」
デメナはそう言いながら、台所へと向かった。
ご飯。大好きな母お手製の、ご飯。
ペルセはウキウキしながら、食卓へと向かう。
「ったく…ちったぁ落ち着け、ペルセ」
クロニオスは呆れたようにそう言った。だが、その声は極めて優しいものだった。
そして、そのままペルセの向かい側に腰掛けた。
「はい、どうぞ」
ペルセがワクワクしながら待っていると、デメナが大皿に乗った肉野菜炒めと、お碗に入った白飯を持ってきた。
炒められた野菜と、お肉のいい匂いが、ペルセの鼻腔をくすぐり、思わず唾を飲み込んだ。
「いっただっきまーす!!」
ペルセはそう言いながら、早速母の手料理に箸をのばした。そして、大皿から肉野菜炒めを取り、自身の口へと運ぶ。
ーーーやっぱり、美味しい。
ハイーラの料理ももちろん美味しいのだが、デメナの料理は方向の違う美味しさだ。
「おいデメナ、これだけしかねぇのか?」
「もちろん、アナタには別で用意していますよ」
クロニオスは肉野菜炒めを豪快に食べながら、デメナに尋ねる。それに対し、デメナは追加で、クロニオス用の大きなステーキを持ってきた。
確かに、クロニオスは毎回ビックリするほどに多量に食べる。ペルセが最初、クロニオスの食事量を見た時は、大層驚いたものだ。
今では慣れてしまったが、それでも毎回目を疑ってしまう。
「お父さん、ホントによく食べるよね」
「…まぁな」
だからこそ、ペルセも思わずそう呟いてしまった。それに対し、クロニオスは少し気まずそうにしながらも、ステーキを頬張っている。
「ふふっ…昔からですよ」
デメナはそう言いながら、クロニオスの隣に腰かけ、食事をし始めた。豪快に食べるクロニオスとは真逆で、優雅に食べている。
本当に、真逆な夫婦だ。
「それで、今日の鍛錬はどうだったんだ?」
「今日は一人での鍛錬で、途中からお母さんが合流したんだけど…」
クロニオスから聞かれ、ペルセは素直に今日の成果を語り始めた。それを、クロニオスは遮ることなく、穏やかに聞いてくれた。
そんな二人のやりとりを、デメナは穏やかに見守っている。
すると、玄関の方から、何か紙が差し込まれたかのような音が聞こえた。その音に反応して、クロニオスとデメナは玄関へと視線を向けた。
「…何だ、郵便物か?」
「確認してみます」
デメナは立ち上がり、玄関の方へと向かう。
クロニオスもデメナも、魔界の幹部だ。郵便物一つとっても、魔界の重大案件である場合もある。だからこそ、こうやって家族の時間を過ごしてても、郵便物の確認だけは怠らないのだ。
家族の時間を中断させられ、少し不満ではあったが、仕方の無いものだと割り切るしかなかった。
「で、どんな手紙だったの?」
「そう焦らないでください」
席に戻ってきたデメナは、封筒を開き、手紙の中身を確認し始めた。




