鍛錬後の平穏
魔界最上位、サトゥニアの町。
今日も、黒い道着を着た桃色の髪の少女が、その町中にある訓練場で、己を磨いていた。
「ふぅ…」
少女ーーーペルセは一通りの鍛錬を終え、汗を拭う。
今日も、いい鍛錬だった。シャワーでも浴びに行こう。
そう思い、ペルセは訓練場から出ようと動き出した。
「お疲れ様です、ペルセさん」
すると、後ろから声をかけられる。その声に反応して振り向くと、そこにはペルセの母・デメナが立っていた。
「あ、お母さん」
「ふふっ…大分、様になってきましたね」
デメナはそう言いながら、飲み物の入ったボトルをペルセの前に差し出してきた。
「ありがとう!」
ペルセは無邪気に笑いながら、そのボトルを受け取り、一口飲んだ。
ーーー冷たくて美味しい。これがペルセにとって、毎鍛錬後のささやかな楽しみでもあった。
「シャワーを浴びたら、ご飯にしましょうか。今日は、こちらに泊まるのでしょう?」
「うん!」
デメナはそう言いながら、優しく微笑んでくる。
ペルセは、うれしくなった。ハイーラの作るご飯が大好きだが、それに負けないくらい、母のご飯も大好きだったからだ。
「お母さん、今日のご飯は何?」
「今日は、肉野菜炒めですよ」
「わーい!!」
ペルセは母と手を繋ぎ、浴室に向かうため、着替えを持って訓練場を出た。
何回見ても、薄暗い廊下だ。来たばかりの頃は、少し怖かった。でも、今ではすっかり慣れてしまった。ましてや、今は隣に母もいる。
ーーー全く、怖くない。
「じゃあ、また後で!」
「えぇ。急がなくていいですからね」
浴室の前に到着すると、デメナに見送られながら、そのまま軽やかな足取りで中に入った。
脱衣場で、着ていた道着を脱いで、洗濯機の中に入れる。あとから、アモディエナの部下が回収してくれるらしい。
「ふんふーん」
ペルセはそのまま、シャワーブースへと向かった。
今までも、何度も使ってきたシャワーだ。ペルセは、慣れた手つきでシャワーの蛇口をひねる。すると、ペルセの頭上から、シャワーの温水が雨のように振り注がれた。
「…ふぅ…」
その温水は、ペルセの身体にまとわりつく汗を、少しずつ洗い流していく。
ーーー思えば、ダスノムから出てきたばかりの時は、シャワーの使い方も分からず、外にいた悪魔に使い方から聞いたものだ。
今では、誰にも聞くことなく、扱うことができるようになっている。
ふと、ペルセはそんなことを思っていた。
「ん…」
しばらくシャワーを浴びた後、蛇口を捻って止める。シャワーヘッドや、自身の髪先から水滴の落ちる音が、静かなシャワーブースに響く。
ペルセは濡れた髪を指で軽く梳かしながら、脱衣場へと戻り、あらかじめ備え付けられているバスタオルへと手をかけた。
「お母さんと、ご飯…ふふっ…」
未だに、家族との食事が楽しみで仕方ない。タオルの中で、ペルセは静かに微笑んでいた。




