10年前の黒歴史
その後、電車は複数の駅を通過していき、ベリアス内を移動していった。
「間もなく、ベリアス西部駅。ベリアス西部駅です」
何度か聞いた、無機質なアナウンス。すっかり、耳に馴染んでいた。
ベリアス東部駅で見たような大きい建物は、もうとうに見えなくなっていた。代わりに、ペルセが暮らす場所の近くのような、皆が暮らしていそうな住宅地がどこまでも広がっていた。
ふと、ペルセは電車の進行方向へ視線を向けた。近くに、電車が止まるであろう駅がすでに見えていた。
「…あれ?」
その奥に見える光景。
普通の住宅街にしか見えないが、ペルセはその光景に、何だか既視感を覚えた。
車内のアナウンスも、周りの乗客の話し声も聞くことなく、ペルセはその一点を見つめ続けた。
電車が再び動き始める。だが、ペルセはそれでも視線をその場所から外さなかった。
絶対に、何かある。なぜだか、そう確信していた。
その間も、電車は進み続けている。それに伴い、周りの光景もハッキリ見えてきた。
ーーーまさか。
いや、そんな偶然があるのだろうか。
一つの結論が、ペルセの頭に浮かんだ。しかし、朧気な記憶を元に導かれた結論でしかなかった。
「次は、ダスノム工業都市前。ダスノム工業都市前。終点です」
「…あっ!!」
だが、そのアナウンスで、ペルセは確信した。
間違いない。ここは、かつてダスノムから出てきたばかりの、10年前の自分が、飢えに苦しみながら、外の世界を求めた自分が、必死に歩いてきた道だ。
あの時の感覚が、一気に蘇った。
終わりが見えなくて辛かったし、苦しかった。そんな中で、ようやく見つけたベリアスの町。この町が、どれだけ希望に満ち溢れた町に見えたか。
「…あの時は、必死だったなぁ…」
もちろん、ベリアス内での自分の振る舞いは、知らなかったとは言え、褒められたものではない。
あの時やってしまった万引きの件も、自分をダスノムから来た、というだけで処理しようとした店側との間に入り、お互いに落ち度があった、という形で、バルディが収めてくれた。
「バルディさん、私が絡んでるからー、とか言ってたけど、アレ絶対アモディエナさんから言われたからだよね〜…」
誰にも聞こえないほどに小さな声で、ペルセはボソッと呟いた。
そして再び、窓の外を眺め始めた。
荒れた土地と、自然が広がっている。
かつての自分が、ボロボロの布切れを身にまとい、わずかな食料のみで、命からがら何とか歩ききった距離。
ーーー今では、手軽に電車で行ける。その事実が、何とも言えない感情を、ペルセの胸に抱かせていた。
そして、遠くを見ると、大きな都市部が視界に入る。だが、住宅街、という感じではない。イアノの屋敷よりも大きそうな施設が、いくつも立ち並んでいるのが見えた。
「ダスノム工業都市前。ダスノム工業都市前です」
ーーーついに、目的地に到着したことを証明するアナウンスが流れた。
「…行こう」
ペルセは心を新たにし、席から立ち上がった。




