電車、到着
しばらく歩くと、開けた光景が広がっている。ここが、駅のホームで間違いないだろう。
「…わぁ…」
閉じられた駅の構内と比べ、気持ちの良い穏やかな風が、ペルセの顔を撫でていく。
屋根こそ付いているが、ほとんどテラスやベランダに近いようなスペースだ。
そのスペースにある椅子に、まばらに悪魔達が座っているのが見える。彼らも自分と同じように、電車に乗りに来た悪魔達だろうか。
「えーっと…次の電車は…」
ペルセは頭上にある電光掲示板を眺める。供給され続ける魔力が、掲示板の文字を目立たせていた。
それを見ると、ダスノム工業都市前行きの列車が来るまで、あと15分ほどかかるようだ。
「…んしょ、っと」
それほど急いでもいないので、のんびり待つことにしたペルセは、近くにあった椅子に座った。屋外にある椅子であるためか、少し硬い素材で作られており、多少乱暴に扱っても壊れなさそうなくらいに頑丈だ。
ペルセは足をプラプラさせながら、眼下に見える光景に視線を向けた。
ーーー高い。
外から見た時も高そうな印象は受けたが、実際に駅のホームに登ってみると、想像以上だった。
地上にいると、建物に遮られて見えない遠くの光景が、ここからならよく見える。
こんな風に、アスティアノの町を見下ろせる日が来るなんて、昔の自分が聞いたら驚くだろう。
駅から伸びる道を歩いている悪魔、道に面してる店で客引きをしてる悪魔、家の設備を修理してる悪魔。
ペルセの知らないアスティアノの日常が、そこにはあった。
様々な住民達が、各々動き回り、生活を営んでいる。その光景が、ペルセの視界に入る。
さらに遠くへ目を向けると、アスティアノから出ていく道を、大荷物を積載した馬車が数台走っていくのも見えた。あの馬車は、これからベリアスにでも行くのだろうか。
「…こんなんだったんだね…アスティアノって」
十年。
短くない期間、アスティアノで暮らしていても、初めて見る光景があった。
元々そうだったのか、この十年で変わってきたものなのか。ペルセには、全てを区分けすることはできない。
だからこそ、眼下の風景をしばらく見ていても、飽きは来なかった。
「間もなく、ダスノム工業都市前行きの電車が到着します。安全のため、線の内側でお待ちください」
すると、無機質な放送が、駅のホームに響き渡る。
ペルセはそれを聞いて、椅子から立ち上がった。
足元を見ると、黄色い線が引かれている。そこの内側に立ち、ペルセは電車が来るのを待った。
ごとん、ごとんという音が聞こえてくる。それと共に、青い魔力を纏いながら、大きな電車が駅のホームへと入ってきた。
「…これが、電車…」
一度、アモディエナから聞いたことがある。はるか昔、ベリアスとアスティアノを結ぶ路線があった、と。その文献を参考にし、電車を現代に再現し、ダスノムまで伸ばしたと。
その時は何だか、古代技術の復活、という印象を受け、ちょっとしたロマンを感じたことを覚えている。その結果が、今目の前にある。
空気の放出される音とともに、電車の扉がゆっくりと開いた。その中から、悪魔達が降りてくる。
ペルセは降りてきた悪魔達を邪魔しないよう、全員が降りきるまで大人しく待った。
「さーて…この駅で降りて…あの店に行くための次のルートは、と…」
そう言いながら、降りてきたスーツ姿の悪魔はペルセの横を通り過ぎた。どうやら、この近辺の店に用があるようだ。
そんな悪魔を尻目に、ペルセは目の前に止まっている、ダスノム工業都市前行きの電車へ乗り込んだ。




