両親の強き決意
「…すっかり、寝てしまいましたね」
デメナはグラスの中のワインを一口分含みながら、自身の隣を見る。
そこには、気まずそうに視線を逸らしながらも、寝ているペルセに抱きつかれているクロニオスの姿があった。
「ったく…だから、とっととハイーラやマールと一緒に戻れと言ったのに…」
クロニオスは呆れたように、小さく息を吐く。
ペルセの保護者であるハイーラ達は、すでに部屋に戻って休んでいる。今この場にいるのは、クロニオスとデメナとペルセ、そして後片付けのために忙しなく動き回るゴエティフス家の使用人達だけだった。
「まぁ…私達とも一緒にいたい、というこの子の思いを、無碍にはできないでしょう」
「そりゃそうなんだがよ」
クロニオスはデメナの言葉に言い返せず、グラスの中の酒をぐいっと煽った。
デメナはその様子を眺めつつ、クロニオスの胸元にいるペルセに視線を向ける。
今まで何度か見てきた、可愛い娘の寝顔だ。完全に、クロニオスの逞しい胸板に体を預け、安心しきっている。クロニオスはそれを、気にも留めない様子で支えていた。
「…リドンの起こした今回の一件」
「あ?」
デメナがポツリと、独り言を漏らした。だが、思ったよりも声量があったようで、クロニオスが反応している。
「それだけではなく、アンドレイスという男にも、ペルセさんは出自で命を狙われています」
「…そうだな」
リドンは厳密に言えば、自分達の血族だと思って狙ってきたわけではないが、サトゥニア側の関係者だと思われて狙われている。だから、ある意味出自で狙われたと言ってもいいだろう。
アンドレイスに至っては、表現するのも憚られる、直球な出自差別をもって、ペルセに襲いかかっている。
ーーーどちらも、ペルセの親として、そして魔界幹部として許せることではない。
「二度と、この娘が…ペルセさんが、生まれ育ちのせいで、泣くことがないように…ダスノムの復旧作業を進めないと、ですね」
「だな。それが、支えられなかった俺達のできる最大の償いであり、娘への最初のプレゼントだ」
デメナの決意を聞き、クロニオスも頷きながら、眠るペルセの頭をそっと撫でる。
「…パパ…ママ…んむ…」
ペルセの表情が、ふにゃりと緩む。
こんな小さくて純粋な娘に、魔界は、自分達はどれほど過酷な試練を強いてしまったか。
でも、悔やんでいても仕方がない。そう思っていると、クロニオスが口を開いた。
「政策内容を分かってねぇ連中は、反乱を起こした罪で近いうちに処罰される。…だが、サトゥニアのことだ、そうなったとしても無理矢理推し進めはしないだろう」
「…そうでしょうね」
「だが、ダスノム復旧作業は、これから加速度的に進むはずだ。長く見ても…施設の運用開始まで、十年とかかるまい」
クロニオスはそう言いながら、ずっとペルセの頭に手を置き、空になった自身のグラスを眺めている。まるで、グラスを通じて、未来を見据えているかのようだ。
「私達は、魔王様を…そして、あなたを支えるだけです。頼みますよ、『クロニオス様』」
「…飲み過ぎだ、お前」
デメナはからかいの意味も込めて、出会った当初の呼び方をしてみた。クロニオスはそれに対し、少し眉をひそめてはいたが、特に嫌がる様子はない。
ダスノムの荒廃した地域の復旧、そして整備は魔界の急務だ。
ーーー二度とペルセのような悲劇を生ませないためにも。
改めて、デメナとクロニオスは深く決心するのであった。




